インプラント型再生軟骨の実用化

監修
東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 感覚・運動機能医学講座 口腔顎顔面外科学
東京大学医学部附属病院 口腔顎顔面外科・矯正歯科 ティッシュ・エンジニアリング部
教授 星 和人 先生

2005年、当社はCSR事業の一環として、東京大学医学部附属病院に「軟骨・骨再生医療寄付講座(富士ソフト)」を開講しましたが、これが当社における再生医療への取り組みの第一歩となりました。
本講座の研究テーマは、東京大学 星 和人教授による「軟骨細胞の三次元培養」であり、この「三次元培養」は再生医療分野で非常に注目されるテーマでした。また、研究内容も、臨床で実現可能なレベルに近いもので興味深く、さらに社会貢献度の高いものでした。
この軟骨細胞の三次元培養技術を使用した「インプラント型再生軟骨」による口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)治療への適応を目指し、開発を開始しました。
2014年2月28日には事業会社として富士ソフト・ティッシュエンジニアリング株式会社(FSTEC)を設立し、「インプラント型再生軟骨」の製造販売業者ならびに特定細胞加工物製造事業者として事業展開しています。

口唇口蓋裂とは

インプラント型再生軟骨の適応となる口唇口蓋裂とは、口唇や歯ぐき、口の天井(口蓋)などに裂け目(裂)がみられる先天性の疾患です。
裂の入り方はさまざまで、左右どちらか片側に入っていたり、両側に入って3つに割れていたりと、個人差があります。
裂の大きさもさまざまで、部分的に裂が認められる場合や(不全型)、口蓋から鼻まで裂がつながっている場合(完全型)があります。
口唇の裂に伴い、鼻の弯曲、左右のアンバランスなども生じます。

  • 不全唇裂
  • 完全口唇口蓋裂
  • 両側口唇口蓋裂

日本では口唇裂および口蓋裂が約400~600人に1人の確率で発生するといわれています。
先天性の外表奇形(生まれつき体表に現れる奇形)の中では、最も頻度が高い疾患です。

口唇口蓋裂の治療

まずは、出生後3か月ぐらいで口唇の裂の治療(口唇形成術)を行い、唇が閉じられるようにします。その後、1歳過ぎぐらいで口蓋の裂を閉鎖し、口腔と鼻腔を遮断する手術(口蓋形成術)を行います。これぐらいの時期に言葉がどんどん出てきますので、言葉を話しやすくするために、この口蓋形成術を行います。さらに、前歯や犬歯が生えてくる小学校入学前後から小学校の中学年ぐらいまでに歯ぐきの裂に患者さん自身の骨を移植して、歯が生えてくる環境を整えます(顎裂部骨移植術)。歯並びが乱れている場合は中学生ぐらいから歯科矯正を行い、上下顎のアンバランスが著しい場合には、体の成長が落ち着くころに上顎や下顎の骨切り手術を追加し、かみ合わせを整えます。大学生や就職するころには治療が一段落しますが、鼻や唇の形が気になる場合は、最終的な修正手術(口唇鼻二次修正術)を行います。

インプラント型再生軟骨とは

軟骨の再生医療としては、自家軟骨細胞移植(ACI)が普及しています。ACIは、培養軟骨細胞を懸濁液やゲル状の形で注入する方法であり、軟骨の局所的欠損が治療対象です。
しかし、三次元的形状と力学的強度を持たないため、口唇口蓋裂の鼻変形などを修復するための移植素材として用いることは困難です。
この問題を解決するため、星教授らは「軟骨・骨再生医療寄付講座(富士ソフト)」において、足場材料として、ポリL乳酸(PLLA)※1の多孔体とアテロコラーゲンハイドロゲル※2と、軟骨細胞を組み合わせたインプラント型再生軟骨を開発しました。

※1
生体吸収性ポリマー。熱可塑性ポリエステル樹脂で強度や剛性に優れ、加工も容易。
※2
軟組織の陥凹部補正修復用の既承認医療機器。低温では流動性があり、体温付近の温度でゲル化する。

移植用の軟骨細胞培養は、患者さんから採取した少量の耳介軟骨から行われます。
単離した軟骨の細胞を患者さん自身の血清を用いて数週間、複数の工程をたどって培養します。

患者さん→組織採取→単離初代培養→拡大培養→加工→患者さんへ移植

インプラント型再生軟骨は、以下の3つの要素技術を擁しており、培養プロセスのマニュアル化、システム化を徹底することで品質の標準化を実現しています。

第1の技術軟骨細胞の大量培養技術

従来の細胞増殖培地にはウシ胎仔血清(FBS)が用いられていたが、動物由来材料であり免疫原性の問題があった。

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ヒト血清を用いた増殖培地の開発

第2の技術足場材料技術、足場材料に投与する技術

足場材料の素材はコラーゲンやヒアルロン酸などの生体材料が主流。
しかし、荷重を支える力学強度を有さない

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ポリL乳酸(PLLA)多孔体による
足場材料の開発

作業者間の手技の違いにより、細胞とアテロコラーゲンハイドロゲルの懸濁および細胞懸濁液の足場材料への投与が均一に行われない懸念があった。

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細胞投与機の開発

第3の技術振とう培養技術

再生医療製品は出荷検査として無菌検査が必須だが、日本薬局方に準拠した検査には2週間を要する
そのため、検査結果が出るのを待っていては、移植に適した状態を過ぎてしまう可能性がある。

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振とう培養技術(特許取得)の開発により、無菌検査中も細胞数の維持が可能。
検査期間中も、形成された再生軟骨の形状を維持する振とう培養技術(特許取得)

搬送技術

病院内等で行われる再生医療では、搬送は不要。しかし、製造元から再生医療製品を医療機関へ送付する場合は、搬送後も細胞が生存できる搬送技術が必須

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搬送技術の開発
  • 輸送温度:27~37℃
  • 最大輸送時間:72時間
  • 温度傾斜:1時間当たり1℃未満

72時間の搬送後も生存率、生細胞数が基準を満たすことを確認

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製造元(当社)から全国の医療機関へ搬送できる技術を確立(輸送時間72時間)

また、IT技術を活用した検体管理システムを使用しており、細胞の取り違えや操作ミス等を防止し、医療の安全性を確保するとともに、検体採取から移植までの情報の一元管理を可能にしています。

インプラント型再生軟骨の実用化に向けて

鼻はもともと軟骨のフレームによって形作られています。口唇口蓋裂の方で鼻変形があり、鼻が低い、弯曲している、左右差がある、などといった場合には、直線的な軟骨を鼻に移植するのが理想的な治療となりますが、直線的な自家軟骨を人体から採取することはできません。
現在、軟骨に代わって骨盤などの硬い骨や、弯曲のある肋軟骨から切り出したものを使用していますが、骨の場合、弾力性がなく外からの衝撃に耐えられなかったり、肋軟骨の場合、徐々に弯曲するといった問題点があります。
また、鼻に移植できる大きさの自家組織を採取するため、患者さん自身の負担が大きいという問題点もあります。
これらを解決するものとして、患者さんの負担が少なく、直線的な形と軟骨に特有な力学強度を有するインプラント型再生軟骨が広く適応され、多くの患者さんに満足頂けるよう取り組んでいます。

インプラント型再生軟骨

特長
三次元形状と力学強度を有する

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鼻変形の形態改善とその維持の実現を目指す

既存治療法の問題点を改善
  1. 侵襲性
  2. 硬さ
  3. 弯曲

移植後の再生軟骨の形状を維持するためには、移植直後は足場材料が関与し、軟骨成熟してからは軟骨基質が形状維持に大きく影響すると考える。軟骨は成熟すると体内での代謝は非常に遅く、数十年かかるといわれている。

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インプラント型再生軟骨の移植により長期的な形状維持を期待

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