前編では生産現場の技術伝承の問題について、そしてその課題を解決するには、現場で知見をためてきたいわゆる“匠”の技術をIoTとソフトウェアでオープン化すべきということをお話しました。後編では、電子基板を製造する工場の電子基板表面実装ラインを例に、匠の技術のオープン化についてより詳しく説明します。

電子基板表面実装ラインとは

私たちにとって身近なスマートフォンやPC、テレビなどには、電子基板が組み込まれています。その電子基板を製造する電子基板表面実装ラインは、基本的に、電子基板搬入コンベア、クリームはんだ印刷機、はんだ検査機、マウンタ、リフロー炉、外観検査機、電子基板搬出コンベアで構成されています。一枚の電子基板が7~8の工程を経て生産されます。この基板生産に関わる動作は自動ですが、部材準備や投入メンテナンスは作業者がそれぞれに適したタイミングで作業しています。

生産工場では、1990年代に設備のネットワーク化が進み、様々なデータがホストコンピュータにリアルタイムで蓄積されるようになりました。電子基板表面実装ラインを構成する設備の多くは、ホストコンピュータやデータサーバに稼働履歴が保存されています。蓄積されたデータはIoTとしても利用可能な状態ですが、設備のメーカーが異なるとデータフォーマットも異なり、見える化の機能もそれぞれのソフトウェアで提供されています。生産枚数、部品使用数、設備エラー集計、部品廃棄エラー集計等、メーカーによっては10種類近くのリアルタイム表示や帳票出力に対応しています。

2000年に入ると、部材投入の間違いを防ぐための通称「ポカヨケ」システムや、生産された電子基板がいつ、どこで、どんな部材や設備を使用して生産されたかを記録参照するためのトレーサビリティシステムの要求が出始めました。

2005年頃には、M2Mの分野で生産ラインが高度に管理されるようになりました。2015年を過ぎた頃から、スマートフォン全盛の時代が始まり、メーカーやEMSの生産拠点も中国、タイ、ベトナム、マレーシアなど海外に展開されていきました。当然、計画的な生産管理をするためには、各拠点の在庫状況や生産能力を迅速に知る必要があります。

そこで脚光を浴びたのが、「IoT」や「スマートファクトリー」というキーワードです。生産工場ではM2Mの実現が早かったため、見える化は進んでいました。では、IoTはどうでしょう。電子基板表面実装ラインを例に生産工場のIoTの現状を見てみましょう。

電子基板表面実装ラインのIoTの現状

電子基板表面実装ラインの設備は、高速で精密に動作しており、その設定データはほとんどが現場で知見をためてきた熟練者“匠”によって定義されています。日々生産作業に関わる匠は、設備メーカーの開発者をはるかにしのぐ生産現場の知識と経験を持っています。そのため、設備の特徴と生産製品に応じて適正値を設定することが可能なのです。

ただし、生産現場の全員が匠というわけにはいかず、どうしても設定値にばらつきが出てしまうこともあります。設備は精密に動作するため、同様に設定値にも精密さが求められています。設定データが精密さを欠けば、OEE(Overall Equipment Effectivenes:設備総合効率)※の各数値が悪化することは明白です。設定値が悪いと問題が発生し、以下のような対応が必要となります。

問題発生→設備の状態や設定値の確認→問題特定→設定値修正→運転再開

匠ならば、設備の状態や設定値を確認してすぐに問題箇所を特定し、正しい設定値に戻すことができます。しかし未熟練者は、問題箇所の特定が困難なため、手っ取り早く設備のスピードを落として対処しようとします。その結果、生産サイクルの時間が伸びてしまい、本来のパフォーマンスを発揮することができません。また、エラーによっては、データの許容値を大きくすることでエラーを回避できることもあるでしょう。しかし、このような暫定の回避策ばかりを繰り返すことで正しい設定値が分からなくなり、負のサイクルを繰り返してしまうのです。

このような場合、原因追及のためにまずは「見える化」が登場します。生産現場では、未熟練者が設備の異常停止や部品判定エラーの種類などについて集計・分析し、改善しようとします。しかし、集計されたデータや分析グラフ、エラー通知機能などを整備しても、匠ほどの知見や技術がなければ正しい対処方法にたどり着けないため、改善できるとは限らないのです。これは、見える化はできても「解る化」ができていない典型的な状況です。

※OEE(overall equipment efficiency):設備総合効率の略称。OEEは、稼働率、性能、品質の3つの要素から設備の能力を図る。「決められた時間内に性能通りのものを作る」ということが実現できているかを判断する指標。

見える化から解る化へ

IoTを利用した見える化のつもりが、根本的な解決には至らない事例は多くあります。見える化を目的とせず、OEEを向上させるためには、どのような機能が必要なのか、どのような出力が必要なのかを十分に検討する必要があります。匠の知見、経験、対処を自動で実現し、「見える」ではなく「解る」ことが重要です。解る化が出来ていないとは、結果は見えてきていても、根本的な原因追及と対処ができない状態です。結果として、匠以外の作業者は様々な手法を試行し時間と材料を浪費してしまいます。解る化とは、解決策を考えている状態ではなく、解決策が提供されている状態と言えます。

見える化にとどまらず、解る化、そして最終的には自律化を実現する方法は、以下のプロセスを完成させることです。

第1段階:IoT化 IoTを利用してデータ収集
第2段階:見える化 異常値集計
第3段階:匠オープン化 異常発生原因の改善策作成
第4段階:自律化 データ作成時に改善策チェック

工場IoTサービスへのチャレンジ

私が所属するエリア事業本部 中部支社は、自動車産業を中心とした多くの製造業のお客様のビジネスを支援しています。高い生産性を実現しているお客様、これからIoTや高効率生産で海外とのコスト戦争を勝ち抜こうとしているお客様に、当社はこれまで培ってきた知見をもとにIoT導入からOEE向上のための解る化サービスを提供いたします。

まずは、表面実装ラインのIoT化と見える化を支援し、当社の考えるOEE向上のためのライン能力測定、作業方法案内、設定データ診断等、生産現場で日常的かつ実用的なサービスを解る化して提供いたします。将来的に、生産現場でのウェアラブルデバイスの活用やAIを用いた作業案内へと発展させることを想定しています。

2020年2月12日(水)から2月14日(金)に東京ビッグサイトで開催される「第4回 スマート工場 EXPO」で、私たちの新しいチャレンジの一部を皆さんにご紹介いたします。ぜひお立ち寄りください。

 

小林 仁志小林 仁志
(Hitoshi Kobayashi)

エリア事業本部 中部支社 工場IoTソリューショングループ
次長 / フェロー

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