教育現場をIT活用でより良くする──多忙な先生に寄り添う教育コンサルティング

近年の教育現場では、生成AIを含めたIT・ICTの導入が急速に進んでいます。その一方で、「現場に導入されたものの、まだ十分に使われていない」「学校や先生によって、活用状況に大きな差がある」といった声も少なくありません。こうした状況の中、単なるツールの導入にとどまらず、教育現場では活用が定着するまでの支援が求められています。
富士ソフトは、教育分野におけるITコンサルティング/教育コンサルティングの両面から、地域の教育委員会や学校に伴走するご支援を進めています。本記事では、元小学校の教師という経歴をもち、現在は当社で教育領域のICT活用支援に携わる藤田 有香に話を聞き、現在の教育現場が抱える課題と、それに対する当社の取り組みを紹介します。
- 学校や先生によって、ICT活用・生成AI活用に大きな差がある
- 業務の多忙さにより、新たな取り組みに時間と余力を割きにくい
- ICTや生成AI導入の背景や目的・効果が、現場に十分伝わっていない
- 他校の成功事例が広がりにくい
- 生成AIをはじめとしたICTを現場で導入しやすくなる
- 効率化によって先生の業務負荷が軽減される
- ICT導入の背景や目的・効果が現場に伝わりやすくなる
- 他校の成功事例が広がりやすくなる
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藤田 有香ソリューションビジネスユニット システムインテグレーション事業本部 ITコンサルグループ川崎市の公立小学校にて、教諭として勤務。全学年で学級担任を担った経験・知見とIT知識に基づき、教育現場におけるさまざまな課題に対してICTを積極的に活用することで、現場目線でのICT活用術について豊富な経験を有する。
その経験から、さらなるICTの活用や発展の可能性を追求したいと考え、教育系のIT企業へ転職。学校現場の多種多様な要望を汲み上げ、ICT導入・定着化の加速や継続的な改善の推進役を担う。参画したプロジェクトでは、メディア(日本教育新聞)に掲載された実績をもつ。
2024年に富士ソフトへ入社し、教育市場に向けた広範・多角的なアプローチを実現するため、ITコンサルタントとして活躍中。さらなるオファリングビジネスの開拓・拡大を目指して、日々の業務に勤しむ。
学校や先生によって、ICTの活用は大きく異なる
小中学校におけるICT活用の最大の課題として挙げられるのが、先生による活用意向の差です。新しいツールが導入されて、積極的に使いこなす先生がいる一方で、ほとんど使わない先生もいて、同じ学校内でも大きな差が生まれることがあります。先生の業務のやり方にその理由があり、日々の授業内容は基本的に個人の裁量に委ねられています。長い間、黒板とノートだけで授業が成立してきた現場では、授業のスタイルを誰かに強制されることはほとんどありません。そのため、教育委員会や学校が新しいツールとしてICTを導入したとしても、実際に使うかどうかは個々の先生の判断に任されているのです。
さらに、教育現場の多忙さは社会問題にもなっています。小学校では全教科を担任の先生が受け持ち、中学校では部活動や行事の対応など、授業以外にもさまざまな業務を抱えています。新しい取り組みに挑戦したい気持ちがあっても、その多忙さが大きな障壁となっているのです。もちろん自然と取り組める先生もいますが、苦手意識のある先生は、「なくてもこれまで通り授業はできる」とつい敬遠してしまうのが実情です。
また、公立校と私立校でもICT活用の進め方には大きな違いがあります。
公立校では、教育委員会の主導でICT活用の意思決定が行われます。学校側の意欲が高くても導入に至らない場合や、逆に現場の納得感が十分でないまま導入が進む場合もあります。導入しても、前述の通りその学校や先生によって意欲が違うと、同じ地域の公立校でもICT活用に雲泥の差ができてしまいます。
私立校ではICTの導入は学校ごとに判断されますが、その学校の経営者や校長が意思決定する場合や、情報担当(ICT担当)の先生が判断する場合、会計や予算を管理する部署が担う場合など、こちらも学校ごとにさまざまです。
このように、地域や学校によって進め方に違いがあるのは仕方ありません。ただそれによってICT環境が変わり、児童・生徒の学習効果やICTの習熟度が変わってくるのは少々問題です。私たちはICT導入を支援することで、その差を埋め、学校格差や教育格差をなくすことに貢献できればと思って活動しています。

授業と子どもに向き合う時間を、ICTの力で取り戻すために

教育現場の課題に対して、当社はまず「導入の初期を固めること」を重視したご支援を行っています。新しい仕組みやツールを導入するといっても、忙しい現場では十分な準備時間を確保することが難しいです。そのため、準備段階やICTに慣れる時間に重点を置き、人材を含めたご支援や、助け合えるサポート体制を整えています。
現場の先生方が、ICTの導入を「時間をかけて覚えなければならないもの」と捉えるか、それとも「こんなに便利なら、すぐにでも使ってみたい」と感じられるかによって、取り組みや定着の度合いに大きな差が生まれます。当社は単なるツール提供にとどまらず、導入初期の研修やサポートを含めた一体型の提案を行うことで、教育現場がスムーズにICT活用に取り組めるような流れをつくりたいと考えています。
具体的には、最初に教育委員会や学校との対話を重ね、現場の状況や不安点を丁寧にヒアリングし、担当者やキーパーソンとなる方に対して研修やサポートを行い、ICT導入の重要性やその効果について丁寧に説明します。「ICTを使うことでさまざまなことが効率化でき、安心して授業に集中できる」そんな状態にもっていくことが理想なのです。
また、教育現場ではデジタル化が十分に進んでおらず、まだ紙による業務が多いのも特徴的です。たとえば教科書の取り寄せや児童・生徒の資料管理、給食費の徴収・管理など、想像以上に多くの事務作業を先生が担っています。そんな作業の、どの業務にICTを活用すると効率化できるかを、先生と共に検討しながら進めています。日常的に発生するルーティンワークや自動化が可能な業務について、生成AIツールなども活用し、授業準備のご支援を進めたりもします。それによって業務負荷が軽減し、先生が本来注力すべき子どもたちと向き合う時間を創出できれば、こんなに良いことはありません。
教師時代の経験をもとに教育コンサルティングを考える
当社の教育コンサルティングの強みは、国の方針、教育委員会、そして学校現場をつなぐ橋渡し役を担える点にあります。教育分野では、文部科学省が示す大きな方針を起点に、教育委員会が施策を具体化し、最終的に各学校へ展開される構造になっています。ただその背景や意図が十分に伝わらず、現場は「なぜ導入されるのか、わからないまま取り組む」という状況が生じることもあります。
私自身も教師時代にそんな経験をしたことがあります。しかし今、ICT推進の立場に立ち、文部科学省の資料を読み込んだり、関連するセミナーに参加したりする中で、施策の背景や目的、これまでの流れをよく理解できるようになりました。それまで断片的に捉えていた現場での取り組みの意味や流れが見えるようになり、現場へのご支援とともに、上流の工程を整えることも必要になってくると考えています。
国や教育委員会の考えを理解したうえでICT導入に向き合うことで、納得感をもった活用につながることを実感しています。この経験から、現場に寄り添いながら、導入の背景や目的を丁寧に伝えることで、教育現場での前向きな活用を促すよう努力しています。

また、地区によって導入されているPC端末やソフトウェアが異なる場合もあります。そのため、先生の異動や転勤の際に、これまで使用していた教材が使えなくなる、授業が思うように行えない、事務処理に手間がかかるなどの問題も発生します。これまでの良い取り組みが継続できないという課題があるのです。これからは、学校や自治体の取り組みを横連携できる制度や人材も必要となってくるでしょう。
現場と対話しながら、具体的な活用事例・効果を創出する
現在、当社がご支援している都内自治体の例をご紹介します。AI活用の第一段階として、生成AIツールのライセンスをまずは希望した先生に配布しています。最初から一斉導入するのではなく、「使ってみたい」と手を挙げた先生に試していただいて、具体的な活用事例を積み上げていくことを目的としています。先生同士の情報共有の場としては、一般的なチャットツールを使用し、専用のグループチャット上で使い方に関する疑問や不安点を投稿してもらい、それに対して私を含めたサポート側が回答やアドバイスを行っています。一方的に教えるのではなく、現場の声を受け止めながら、どのような使い方が適しているのかを一緒に考えていく姿勢を大切にしています。
ある程度の試用期間を経たのちに、また学校を訪問し、先生方と対話しながら、どのような業務で活用され、どう感じていらっしゃるかを取材します。また、紙で行われている事務作業をどう自動化していくかについても、一緒に検討していく予定です。日々の業務に即した形で改善点を見つけることで、現場にとって意味のある活用につなげていきたいと思っています。
この取り組みは、1年後には先生全員へ展開することを見据えた、段階的な導入でもあります。事例や効果が見えないまま全員に配布指示するのではなく、活用する価値や効果を具体的に示すことが重要なのです。このような検証を重ねた導入プロセスによって、教育現場に良い変化をもたらすことを目指しています。

ICTを味方に、先生という仕事に余裕が生まれるように
私は子どもの頃から教師を目指し、教師として採用されてからは、小学校で学級担任を7年間、特別支援教室を2年間担当しました。日々子どもたちと向き合うことにやりがいを感じる一方で、業務の多忙さもあり、時間的にも精神的にも余裕を持って取り組める仕事環境とは言えないなと、当事者として実感してきました。授業の準備や事務作業に追われ、本来向き合うべき子どもたちに十分な時間を割けない現状に課題を感じていたのです。
こうした経験を経て、私自身のことだけでなく、学校教育のあり方や教師の働き方を見つめ直したいという想いが強くなっていき、思い切って職業を変えるという決断に至ったのです。
教育現場を離れたことで、視野が広がり、元の仕事環境も俯瞰で見られるようになりました。デジタルシティズンシップ(デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、責任ある行動をとれる能力)という指針を学び、子どもたちがデジタル社会で生きていくためのモラルや未来の視点について、改めて考える余裕が生まれました。今は外部の立場から、現場で奮闘する先生方を支援したいという気持ちが強いです。
現場の先生は、ICT活用を「難しいもの」「面倒なもの」として、教育現場に持ち込むことを躊躇する方がまだ多いのです。私は、誰もが安心して使え、なんでも頼れるパートナーのような存在として、ICTを自然に教育現場へ根付かせたいと考えています。
デジタルモラルを学ぶ場も重要であり、学校と家庭・子どもが一体となって取り組む必要があります。たとえば小学校高学年の子どもたちに、生成AIを使ってみるという実習を行うとき、「生成AIが返してくる答えには、正しいところも間違ったところもある」ということをきちんと教えます。すると子どもたちは、「ここは正しい」「これは間違い」「これは正解に近いけれど少し違う」など、自分で判断することを学んでくれます。SNSも便利で楽しいけれど、してはいけないことや、危険が潜んでいることなど、デジタルモラルを身につけてもらうことは今の時代にはとても重要だと思います。
私は、「先生という仕事は素晴らしい職業だ」ということを、実感できるものにしたいのです。そのためには、もっと余裕をもって働ける仕事環境が必要です。ICTを活用することで、働き方や授業の質さえも大きく向上すると考えており、教育現場はICT化が遅れている分、まだまだ大きな伸びしろがあると感じています。ICTの可能性を活かし、現場に寄り添って、理想とする教育の姿に一歩一歩近づいていきたいと思っています。

※記載の会社名、製品名は各社の商標または登録商標です。

