阿部良平
富士ソフト株式会社
ソリューション事業本部 営業統括部
ソリューション営業部 第4営業グループ
2014年 富士ソフト株式会社入社。お客様付きのアカウント営業として活動したのち、2024年よりintra-martのソリューション営業担当としてお客様へご提案を実施。
システム刷新を検討する際には、まず基本的な用語の意味を正確に理解することが重要です。モダナイゼーションとマイグレーションは、どちらもシステム刷新に関わる概念ですが、アプローチの方向性が根本的に異なります。
ここでは、両者の定義と基本的な考え方について解説します。これらの違いを理解することで、自社のシステム課題に対してどのようなアプローチが適しているか判断する土台を作ることができます。
モダナイゼーションとは、既存システムを現代的な技術やアーキテクチャに刷新し、システム全体の価値を高める取り組みを指します。単なる環境移行にとどまらず、システムの機能性や拡張性、保守性を向上させることを目的としています。
具体的には、古い言語で書かれたプログラムを最新の言語に書き換えたり、モノリシックな構造をマイクロサービス化したりする作業が含まれます。ビジネス環境の変化に迅速に対応できるシステム基盤を構築することが主眼となります。
モダナイゼーションは、レガシーシステムが抱える技術的負債を解消し、将来的な拡張や変更に柔軟に対応できる基盤を整備する手法として注目されています。
マイグレーションとは、既存システムを別の環境やプラットフォームに移行することを指します。システムの機能や構造は基本的に変更せず、動作環境のみを変える移行作業が中心となります。
代表的な例としては、オンプレミス環境からクラウド環境への移行や、古いデータベースから新しいデータベースへのデータ移行などが挙げられます。システムの基本的な動作や機能はそのまま維持しながら、インフラ環境だけを変更する手法です。
マイグレーションは、ハードウェアの保守期限切れやライセンス更新、運用コスト削減などの具体的な課題に対処するための手段として広く用いられています。
モダナイゼーションとマイグレーションの本質的な違いは、システム刷新の目的と範囲にあります。マイグレーションが「どこで動かすか」という環境の変更に焦点を当てるのに対し、モダナイゼーションは「どう動かすか」というシステムの在り方そのものを見直します。
マイグレーションは比較的短期間で実施できる一方、モダナイゼーションは中長期的な視点でシステム全体を再設計する取り組みとなります。どちらが優れているということではなく、企業が直面している課題や目標に応じて適切な手法を選択することが求められます。
| 比較項目 | モダナイゼーション | マイグレーション |
|---|---|---|
| 主な目的 | システムの機能性や価値向上 | 動作環境の変更 |
| 変更範囲 | 構造・機能・環境を含む全体 | 主に環境やプラットフォーム |
| 実施期間 | 中長期(数ヶ月〜数年) | 短中期(数週間〜数ヶ月) |
| コスト規模 | 大きい | 比較的小さい |
モダナイゼーションは、単なるシステム移行ではなく、ビジネスの競争力を高めるための戦略的な投資として位置づけられます。ここでは、モダナイゼーションの具体的な手法や、導入によって得られるメリットについて詳しく見ていきます。
モダナイゼーションには、複数のアプローチが存在します。リホスト、リプラットフォーム、リファクタリング、リアーキテクト、リビルド、リプレースという6つの手法が一般的に知られています。
リホストは既存システムをそのままクラウド環境に移行する方法で、リフト&シフトとも呼ばれます。一方、リアーキテクトやリビルドは、システムの設計から見直し、最新のアーキテクチャで再構築する抜本的な手法です。
企業の状況や課題に応じて、これらの手法を組み合わせたり段階的に実施したりすることで、リスクを抑えながらモダナイゼーションを進めることができます。どの手法を選ぶかは、現状システムの技術的負債の大きさや、ビジネス要件の変化度合いによって判断する必要があります。
モダナイゼーションの最大の利点は、システムのビジネス価値を高められることです。最新の技術基盤を導入することで、新機能の追加やサービス改善が迅速に行えるようになります。
従来は数ヶ月かかっていた機能追加が数週間で実現できるようになったり、顧客からの要望に素早く対応できる体制が整ったりします。これにより、市場の変化やビジネスチャンスに機敏に対応できる組織体制が構築されます。
また、マイクロサービス化やAPI連携によって、他システムとの統合が容易になり、新しいビジネスモデルの創出や顧客体験の向上につながります。
モダナイゼーションを実施することで、長期的な運用コストの削減が期待できます。レガシーシステムでは、古い技術に精通した人材の確保が困難になり、保守費用が高騰する傾向があります。
最新の技術スタックに移行することで、エンジニアの採用や育成がしやすくなり、属人化のリスクも軽減されます。標準化された技術を使用することで、ドキュメント整備やナレッジ共有も容易になります。
さらに、クラウドネイティブな設計を取り入れることで、インフラの自動化やスケーラビリティが向上し、システム運用の効率化が実現します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、モダナイゼーションは不可欠な要素となります。2025年の崖と呼ばれる問題に対応するためにも、早期のシステム刷新が求められています。
経済産業省のDXレポートでは、レガシーシステムが企業の競争力を阻害する要因として指摘されています。モダナイゼーションによってシステム基盤を整備することで、データ活用やAI導入などの先進的な取り組みが可能になります。
ビジネス環境の急速な変化に対応するためには、柔軟で拡張性の高いシステム基盤が必須であり、モダナイゼーションはその実現手段として注目されています。
| モダナイゼーションのメリット | 具体的な効果 |
|---|---|
| ビジネス対応力の向上 | 新機能開発の迅速化、市場変化への柔軟な対応 |
| 技術的負債の解消 | 保守性向上、技術者確保の容易化 |
| 運用効率化 | 自動化推進、人的リソースの最適化 |
| 拡張性の確保 | システム連携の容易化、スケーラビリティ向上 |
マイグレーションは、既存システムの機能や動作を維持しながら環境を変更する手法です。ここでは、マイグレーションの具体的な種類や、導入によって得られるメリットについて解説します。
マイグレーションには、いくつかの代表的な種類があります。オンプレミスからクラウドへの移行、データベース移行、アプリケーション移行、OSやミドルウェアの移行などが主なパターンです。
クラウドマイグレーションは、物理サーバーからクラウド環境へシステムを移す作業で、近年最も多く実施されている移行形態です。これにより、ハードウェアの保守負担から解放され、柔軟なリソース管理が可能になります。
データマイグレーションでは、商用データベースからオープンソースデータベースへの移行などが行われ、ライセンスコストの削減が期待できます。それぞれの移行種類によって、実施期間やリスク、必要なスキルセットが異なります。
マイグレーションの大きなメリットは、短期間で明確なコスト削減効果が得られることです。ハードウェアの保守費用やデータセンターの運用費用を削減でき、投資対効果が可視化しやすいという特徴があります。
特にクラウドへの移行では、従量課金制によってリソースの最適化が進み、無駄なインフラコストを削減できます。また、物理的な設備管理が不要になることで、運用担当者の業務負荷も軽減されます。
初期投資を抑えつつ、段階的にシステム環境を改善できる点も、予算制約のある企業にとって魅力的な選択肢となります。
マイグレーションは、既存システムの機能を変更しないため、ビジネスへの影響を最小限に抑えながら実施できます。ユーザーインターフェースや業務フローが変わらないため、利用者への教育コストも少なくて済みます。
実施期間も比較的短く、数週間から数ヶ月で完了することが一般的です。システムの規模や複雑さによって変動しますが、モダナイゼーションに比べると短期間で実施できるケースが多くなります。
また、移行手順が確立されている場合が多く、実績のあるツールやサービスを活用することで、さらにリスクを低減できます。段階的な移行も可能なため、重要度の低い部分から試験的に実施することもできます。
マイグレーションは、特定の課題に対する対症療法として有効です。ハードウェアの保守期限が迫っている、データセンターの契約更新時期が近い、ライセンス費用を削減したいといった明確な課題がある場合に適しています。
また、現状のシステム機能に大きな問題がなく、当面は既存の業務フローを維持したい場合にも有力な選択肢となります。システム刷新の予算や時間が限られている状況でも、マイグレーションによって短期的な課題解決が可能です。
ただし、マイグレーションだけでは技術的負債の根本的な解決にはならないため、将来的にモダナイゼーションを検討する必要があることを理解しておくことが重要です。
| マイグレーションのメリット | 具体的な効果 |
|---|---|
| コスト削減 | ハードウェア保守費削減、運用費用最適化 |
| 短期実現性 | 数週間〜数ヶ月での実施完了 |
| 低リスク | 既存機能維持、ユーザー影響最小化 |
| 業務継続性 | 業務フロー変更不要、教育コスト削減 |
モダナイゼーションとマイグレーションのどちらを選ぶべきかは、企業の現状や目標によって異なります。ここでは、自社に適した手法を選択するための判断基準と、導入を成功させるためのポイントについて解説します。
まずは、現在のシステムが抱えている課題を明確にすることから始めます。技術的負債の大きさ、ビジネス要件の変化頻度、予算と期間の制約などを総合的に評価することが重要です。
システムの老朽化度合いや保守状況、現在のビジネス環境への適合度を客観的に評価しましょう。また、今後3年から5年の事業方針やシステムへの期待値も考慮に入れる必要があります。
現状分析では、技術面だけでなく、組織体制やスキルセット、予算状況なども含めた多角的な視点で検討することが求められます。外部のコンサルタントや専門家の意見を取り入れることも有効です。
短期的なコスト削減や環境移行が主な目的であれば、マイグレーションが適しています。一方、ビジネス競争力の強化やDX推進を重視する場合は、モダナイゼーションを検討すべきです。
緊急性の高い課題への対応が必要な場合は、まずマイグレーションで環境を安定化させ、その後段階的にモダナイゼーションを進めるという段階的アプローチも考えられます。このハイブリッド戦略により、リスクを分散しながら長期的な目標に向かうことができます。
投資対効果の観点では、マイグレーションは短期的な効果測定がしやすく、モダナイゼーションは中長期的な価値創出を目指す投資となります。経営層の理解を得るためには、この違いを明確に説明することが必要です。
どちらの手法を選択する場合でも、綿密な実施体制の構築が成功の鍵となります。初期段階では、現状調査と要件定義を丁寧に行い、移行範囲やスケジュール、リスク対応策を明確にします。
次に、パイロットプロジェクトとして小規模な範囲で試験実施し、課題や改善点を洗い出します。この段階で得られた知見を基に、本格展開の準備を進めていきます。
実施期間中は、定期的な進捗確認と課題対応を行い、必要に応じて当初の方針を見直す柔軟性も持つことが重要です。完了後も、効果測定と継続的な改善活動を実施し、投資効果を最大化できるようにしましょう。
システム刷新プロジェクトを成功させるためには、経営層のコミットメントと現場の理解が不可欠です。プロジェクトの目的と期待効果を組織全体で共有し、関係者の協力体制を構築することが重要です。
技術面では、適切なパートナー企業の選定や、社内エンジニアのスキル向上支援も必要になります。外部リソースに依存しすぎると、完了後の運用で困難が生じる可能性があるため、知識移転やドキュメント整備も並行して進めます。
また、ユーザーへの影響を最小限に抑えるため、移行スケジュールの調整やバックアップ体制の確保、万が一の際のロールバック手順の準備なども重要な要素となります。
| 判断軸 | マイグレーション向き | モダナイゼーション向き |
|---|---|---|
| 目的 | 環境変更、コスト削減 | 機能強化、競争力向上 |
| 緊急度 | 短期対応が必要 | 中長期的な取り組み |
| 予算規模 | 限定的 | 戦略的投資が可能 |
| システム状態 | 機能は問題ない | 抜本的な改善が必要 |
モダナイゼーションとマイグレーションは、どちらもシステム刷新の重要な手法ですが、目的とアプローチが大きく異なります。マイグレーションは既存システムを別環境に移行する手法で、短期的なコスト削減や環境変更に適しています。一方、モダナイゼーションはシステムの機能性や拡張性を高める抜本的な刷新手法であり、DX推進やビジネス競争力強化に有効です。
自社に適した手法を選択するためには、現状のシステム課題や事業目標、予算と期間の制約を総合的に評価することが重要です。緊急性の高い課題にはマイグレーションで対応し、その後段階的にモダナイゼーションを進めるハイブリッド戦略も有効な選択肢となります。どちらの手法を選ぶ場合でも、経営層のコミットメントと組織全体の理解を得ながら、綿密に実施体制を構築することが大切です。
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