クラウドサービスにおける責任共有モデルとは?責任範囲の留意点を解説

責任共有モデルとは、クラウドサービスにおけるセキュリティ管理の責任を、クラウドサービス提供者とクラウドサービス利用者の間で分担をするフレームワークです。責任共有モデルでは、クラウドサービス提供者とその利用者の役割分担が明確に示されています。クラウドサービスを利用する際の責任の範囲を理解することで、利用者が直面するセキュリティリスクを最小限にとどめることができます。本記事では、責任共有モデルの基本から始まり、クラウドサービス利用者が知っておくべき重要なポイントを解説します。これにより、ビジネスにおけるクラウドセキュリティリスクを低減させることが可能となります。
- 責任共有モデルはクラウドサービスにおけるセキュリティ管理の責任を、クラウドサービス提供者と利用者の間で分担する責任の範囲を示したもの
- IaaS、PaaS、SaaSという3つの主要なクラウドサービスの分類における責任範囲の違いがあり、クラウドサービス提供者によっても違うため注意が必要
- 責任共有モデルを理解することで、クラウドサービス利用者が直面するセキュリティリスクを低減することができる
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川西 就ソリューション事業本部 インフラ事業部 クラウドソリューション部 エリアグループ
主任/ エキスパート大学など文教案件での基幹システム導入や教室リプレイス、保守対応からインフラエンジニアのキャリアを歩み始める。端末/ネットワーク/サーバ含めたインフラ全般において5年間、設計/構築/運用のフェーズを担当。そこで得た経験を元に新たな会社で4年間、公共案件のPLとして官公庁、地方自治体、教育委員会などを経験する。屋外無線、4K/8Kなどニッチな分野も経験するようになり、業務の幅を更に広める。2018年富士ソフトに入社後は、コンサルタント、プリセールス、PM/PLを対応。現在はAWSとセキュリティをメインに対応している。
責任共有モデルとは何か?基礎から徹底解説

クラウドサービスを導入する際、責任共有モデルを理解することは非常に重要です。クラウド環境では、クラウドサービス提供者と利用者の間でどのように責任が分担されるかが明確に定められています。責任共有モデルの基本的な概念から、具体的な責任範囲の明確化までを詳しく解説します。クラウドサービスの導入を検討している方、すでに導入をしている企業のセキュリティ関係者の方が知っておくべき内容をまとめました。
責任共有モデルの基本概念を理解する
責任共有モデルとは、クラウドサービスにおけるセキュリティ管理の責任を、クラウドサービス提供者と利用者の間で分担する責任の範囲を示したものです。具体的には、クラウドサービス提供者がハードウェアや基盤のセキュリティを担当し、利用者がデータやアプリケーションのセキュリティを担当します。このモデルを理解することで、クラウド環境におけるセキュリティリスクを効果的に管理できます。
責任共有モデルが重要になった背景
クラウドサービスが拡大する以前は、企業のシステムは自社で設備を所有・管理するオンプレミスが主流でした。自社の情報システム部門や委託先の会社が、ネットワーク、ストレージ、サーバーなどのインフラから、ミドルウェア・アプリ・データなどのアプリ層まで一元管理・運用し、セキュリティ事故など管理上の不具合があった場合はすべて自社の責任となります。クラウドサービスが拡大し、いつでもクラウド上のデータにアクセスすることが可能になった一方で、ランサムウェアなどの悪意あるプログラムによる攻撃やウイルス感染などのセキュリティリスクは高まっています。このような背景から、クラウドサービス提供者と利用者の双方で協力してセキュリティを高めるために、責任共有モデルが重要視されるようになりました。
サービス分類ごとに異なる役割分担
クラウドサービスは「IaaS」「PaaS」「SaaS」など、複数のサービス分類が存在します。それぞれ提供するサービスの範囲が違うため、サービス提供者と利用者の責任範囲も異なります。さらにAWSの責任共有モデルとMicrosoftの責任共有モデルにも違いがありますので、クラウドサービス提供者ごとに注意をすることも必要です。
責任共有モデルは総務省で定められている重要項目
クラウドサービスを検討する際、責任共有モデルは避けて通れない重要な概念です。総務省が定めるガイドラインに基づいて、企業がどのようにこのモデルを理解し、活用するかが問われます。責任共有モデルが総務省によってどのように重要視されているかを解説し、企業が注意すべきポイントを明らかにします。
「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」について
「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」は、クラウドサービスの利用に際しての情報セキュリティを確保するために総務省が策定した指針です。このガイドラインは、クラウドサービスの普及に伴い、情報漏洩やデータの不正アクセスといったリスクが増大する背景から生まれました。企業がクラウドサービスを安全に利用するための具体的な対策が示されています。
ガイドラインでは、クラウドサービスの提供者と利用者の双方が果たすべき役割が明確にされています。特に、データ保護やアクセス制御といった重要なセキュリティ対策について、具体的な手順や考慮すべきポイントが記載されています。クラウドサービスの利用者は、これらのガイドラインを熟知し、社内のセキュリティ対策を強化することが求められます。クラウドサービスの導入にあたっては、ガイドラインを基にした計画的なセキュリティ対策が不可欠です。
※クラウドサービス提供における 情報セキュリティ対策ガイドライン(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000771515.pdf
サービス分類による責任範囲の違い

クラウドサービスを導入する際に、確認すべきポイントは「責任範囲」です。IaaS、PaaS、SaaSという3つの主要なクラウドサービスの分類における責任範囲の違いを解説します。サービスごとに異なる責任範囲を理解することで、セキュリティの管理や運用方法も含めて、自社に合うサービスを検討することが大切です。
IaaS(イアース)
IaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想化されたコンピューティングリソースを提供するクラウドサービスです。企業はハードウェアを購入することなく、必要なインフラを利用できます。IaaSでは、プロバイダーがハードウェアやネットワークの管理を担当し、利用者はOSやアプリケーションの管理を行います。このため、企業は自社のニーズに応じた柔軟なシステム構築が可能です。
IaaSの責任範囲では、データのセキュリティやバックアップ、リソースのスケーリングなどは利用者の責任となります。プロバイダーは物理的なインフラの保守やネットワークの可用性を保証しますが、OSの設定やアプリケーションのセキュリティは利用者の管理下にあります。これにより、企業は独自のセキュリティポリシーを適用しやすくなります。
PaaS(パース)
PaaS(Platform as a Service)は、アプリケーション開発のためのプラットフォームを提供するサービスです。開発者はインフラの管理を気にせずに、アプリケーションの開発とデプロイに専念できます。PaaSでは、プロバイダーがOSやミドルウェアの管理を行い、利用者はアプリケーションのコード作成やデータ管理に集中します。
PaaSの責任範囲では、開発環境のセキュリティやアプリケーションのスケーラビリティはプロバイダーが管理します。しかし、アプリケーションのコードやデータのセキュリティは利用者の責任です。これにより、企業は迅速にアプリケーションを開発し、市場投入までの時間を短縮することが可能です。
SaaS(サース)
SaaS(Software as a Service)は、ソフトウェアをインターネット経由で提供するサービスです。利用者はソフトウェアのインストールやメンテナンスを行う必要がなく、即座に利用を開始できます。SaaSでは、プロバイダーがアプリケーションのすべての管理を行い、利用者はアプリケーションを使用するだけです。
SaaSの責任範囲では、アプリケーションのセキュリティやアップデート、データのバックアップはプロバイダーが担当します。利用者は、アプリケーションの設定やデータの入力を行うだけで済みます。このため、企業はITリソースの負担を大幅に軽減し、コアビジネスに集中することができます。
責任共有モデルの3つの主要な利点
クラウドサービスを利用する際、責任共有モデルがどのように企業に利益をもたらすかを理解することは重要です。ここでは、責任共有モデルがもたらす3つの主要な利点について詳しく解説します。セキュリティの強化、コスト削減、高い可用性とパフォーマンスの確保といった観点から、知っておくべきポイントを明確にします。これにより、クラウドサービスの導入を検討する際に、より適切な判断を下せるようになります。
セキュリティ強化への貢献

責任共有モデルは、クラウドサービスのセキュリティ強化に大きく貢献します。クラウドプロバイダーは、インフラストラクチャのセキュリティを管理し、最新の技術を用いて脅威を防ぎます。一方で、利用者はデータの保護とアクセス管理を担当します。これにより、各自の役割が明確化され、セキュリティリスクが分散されます。結果として、より安全なクラウド環境が実現されます。
また、責任共有モデルにより、プロバイダーと利用者が協力してセキュリティインシデントに対応できる体制が整います。これにより、迅速な対応が可能になり、被害の拡大を防ぐことができます。責任の明確化は、セキュリティ強化の重要なステップです。
コスト削減の実現
クラウドサービスにおける責任共有モデルは、コスト削減にも寄与します。プロバイダーがインフラストラクチャの管理を担うことで、企業は自社でサーバーを維持するためのコストを削減できます。また、クラウドサービスはスケーラビリティが高いため、必要に応じてリソースを柔軟に調整でき、無駄な支出を抑えることができます。
さらに、責任共有モデルにより、企業はセキュリティやコンプライアンスに関するコストをプロバイダーと分担できます。これにより、特定の分野に集中して投資できるため、全体的なIT予算の効率化が図れます。これらの要素が組み合わさることで、企業はコストを最適化しながら、より効果的なクラウド利用が可能になります。
高い可用性とパフォーマンスの確保
責任共有モデルは、高い可用性とパフォーマンスの確保にもつながります。クラウドプロバイダーは、冗長性の高いインフラストラクチャを提供し、サービスのダウンタイムを最小限に抑えるよう努めます。これにより、企業は業務の継続性を確保しやすくなります。
また、プロバイダーは最新の技術を導入し、パフォーマンスの最適化を図ります。利用者は、これらの技術を活用し、自社の業務プロセスを効率化することが可能です。責任共有モデルにより、プロバイダーと利用者が協力して高い可用性とパフォーマンスを維持することができるため、企業の競争力を高めることができます。
クラウド導入時に考慮すべき責任共有モデルの留意点
クラウドサービスを導入する際には、責任共有モデルの理解が欠かせません。クラウドサービスを検討している企業が、導入時に見落としがちな重要なポイントを押さえるためのガイドです。責任の所在を明確にすることで、トラブルを未然に防ぎ、サービスの効果を最大限に引き出すことが可能になります。
法規制との整合性を確認
クラウドサービスを利用する際には、法規制との整合性を確認することが重要です。特に、個人情報保護法やGDPR(一般データ保護規則)などの規制に対応しているかをチェックする必要があります。これらの規制は、データの扱い方に厳しい基準を設けており、違反すると多額の罰金が科される可能性があります。
また、クラウドプロバイダーが提供するサービスが、国内外の法規制に適合しているかも確認しましょう。プロバイダーのデータセンターの所在地や、データ転送の方法が法的に問題ないかを確認することが求められます。法規制に適合したクラウドサービスを利用することで、企業の信頼性を高めることができます。
データ管理とプライバシーの確保
クラウドサービスにおけるデータ管理とプライバシーの確保は、情報システム部門の責任者にとって避けて通れない課題です。クラウド上に保存されるデータの管理方法や、アクセス権限の設定は、セキュリティを維持するうえで非常に重要です。プロバイダーが提供する暗号化技術や、アクセスログの管理機能を活用することで、データの安全性を高めることができます。
さらに、データのバックアップや復旧体制についても確認しておく必要があります。データが消失した場合に備え、プロバイダーがどのような復旧手段を提供しているかを把握することが大切です。これにより、万が一の事態にも迅速に対応できる体制を整えることができます。
プロバイダーとの契約条件を明確にする
クラウドサービスを利用する際には、プロバイダーとの契約条件を明確にすることが必要です。契約内容には、サービスの提供範囲やサポート体制、料金体系などが含まれます。これらの条件を事前にしっかり確認することで、後々のトラブルを回避することができます。
特に、サービスレベルアグリーメント(SLA)については、具体的な内容を理解しておくことが重要です。SLAは、サービスの可用性や応答時間、サポート内容を定めたものであり、これに基づいてサービスの品質が保証されます。プロバイダーとの契約を通じて、企業のニーズに合ったサービスを受けることができるようにしましょう。責任共有モデルの対策が必要なクラウドサービスの例

クラウドサービスを選定する際、責任共有モデルの理解は欠かせません。特に、Microsoft Azure、AWS、Google Cloudといった主要なクラウドサービスプロバイダーは、それぞれ異なる責任共有モデルを採用しています。各サービスの特徴を理解し、企業が適切な対策を講じるための情報を提供します。これにより、情報システム部門の責任者が自社に最適なクラウドサービスを選ぶための指針を得ることができます。
Microsoft Azure責任共有モデル
Microsoft Azureの責任共有モデルは、クラウドプロバイダーと利用者の間での明確な役割分担が特徴です。プロバイダーは、物理的なインフラストラクチャやネットワークのセキュリティを担当します。一方で、利用者は、データの保護やアプリケーションの管理、アクセス制御などの責任を負います。Microsoft Azureでは、利用者が自社のセキュリティポリシーに基づいて設定を行うことが求められます。これにより、利用者は自社のセキュリティ要件に応じたカスタマイズが可能です。
また、Microsoft Azureでは、利用者が自らの責任範囲を理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。Azure Security Centerなどのツールを活用することで、セキュリティの可視性を高め、潜在的な脅威を特定することができます。これにより、利用者は自社のデータをより安全に管理することが可能になります。
AWS(Amazon EC2・Amazon RDS)責任共有モデル
AWSの責任共有モデルは、クラウドのセキュリティをプロバイダーと利用者が共同で確保することを前提としています。AWSは、インフラストラクチャの保護、データセンターの物理的なセキュリティ、およびハードウェアの管理を担当します。一方で、利用者は、オペレーティングシステムの設定やデータの暗号化、ネットワークトラフィックの管理に責任を持ちます。
特にAmazon EC2やRDSを利用する際には、利用者が自身のアプリケーションやデータベースのセキュリティを確保するために、適切なアクセス制御や監視を行うことが求められます。AWSは、利用者がセキュリティのベストプラクティスを実践できるよう、豊富なリソースを提供しています。これにより、利用者はクラウド環境におけるセキュリティを強化することが可能です。AWSの責任共有モデルを英語でShared Responsibility Modelと言います。
Google Cloud責任共有モデル
Google Cloudの責任共有モデルは、プロバイダーと利用者が共にセキュリティを担う「共有運命」という考え方を採用しています。Googleは、インフラストラクチャのセキュリティやデータセンターの保護を担当し、利用者は、データの保護やアプリケーションの設定に責任を持ちます。Google Cloudでは、セキュリティの自動化や機械学習を活用した脅威検知が可能であり、利用者のセキュリティ対策を支援します。
利用者は、Google Cloudの提供するセキュリティツールを活用して、データの暗号化やアクセス制御を行うことが求められます。また、Google Cloudは、セキュリティの透明性を高めるために、利用者が自身の責任範囲を理解しやすいドキュメントを提供しています。これにより、利用者は自身のセキュリティポリシーに基づいて、クラウド環境を最適化することが可能になります。
クラウドサービス利用の成功へ!責任共有モデルの理解を深めるためのステップ
クラウドサービスを成功裏に導入するためには、責任共有モデルの理解が欠かせません。まず、基本概念を把握し、サービスプロバイダーと利用者の役割分担を明確にすることが重要です。これにより、各自の責任範囲を明確にし、トラブルを未然に防ぐことが可能になります。
次に、サービス分類による責任範囲の違いを理解しましょう。IaaS、PaaS、SaaSといった各種サービスには、それぞれ異なる責任範囲があります。これを理解することで、より適切なサービス選定が可能となり、企業のニーズに合ったクラウド環境を構築できます。
最後に、導入時の留意点を確認することが大切です。法規制との整合性やデータ管理、プライバシーの確保、プロバイダーとの契約条件をしっかりと把握することで、クラウドサービスの導入を円滑に進めることができます。これらのステップを踏むことで、クラウドサービスのメリットを最大限に活用することができるでしょう。

富士ソフトのセキュリティ運用サービス「FujiFastener」
富士ソフトでは、個々の企業に適したセキュリティ戦略の立案からサポートしております。また、クラウド内製化支援の中で、セキュリティ強靭化支援も行っています。お客様の社内に分析チームを編成して、自社の環境を監視し、問題が生じた場合には当社のセキュリティ運用サービス「FujiFastener」を活用して対処する形もおすすめです。
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