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2026年3月3日

人の「個性」を理解し「能力」を拡張する―クローンAIと創る新たな未来

その進化がつねに驚きを持って迎え入れられるAI(Artificial Intelligence)ですが、今やもう単なる情報処理の道具から、人間の能力を補完し支えるパートナーとしての役割が求められるようになっています。最先端で注目を集めるのは、個人の思考や価値観、話し方まで学習して再現できる「クローンAI」です。富士ソフトは、「人間の力を引き出す相棒」という位置づけでクローンAIの開発に取り組んでいます。本記事では、クローンAI開発に取り組む杉本 直輝、藤村 幸代に話を聞きながら、その技術的特徴や役割、社会的意義、実際の活用事例、そして将来の展望までをご紹介します。

富士ソフトの「クローンAI」の特徴
  • 個人の表層個性、深層個性をAIで再現
  • 教育や介護分野での活用(個別最適化)の可能性
  • 人間の能力拡張を目指すツールとしての位置づけ
登場社員のプロフィール
  • 杉本 直輝

    プロダクト事業本部
    副本部長

    2000年に大学卒業後、富士ソフトへ入社。約8年間、ソフトウェアエンジニアとして業務システム開発に従事し、その後ロボットの知能化に関する研究やコミュニケーションロボットの開発に携わる。現在は、自社プロダクト全般の技術責任者として活動している。

  • 藤村 幸代

    プロダクト事業本部 エイジングテック推進部 商品開発グループ
    課長

    2006年に富士ソフトへ入社。研究開発部門への所属後、コミュニケーションロボットの開発や運用・保守に従事。ロボットの会話知能の開発を通じ、人がロボットやAIと自然に対話できる仕組みの研究を行っている。

課題は、一人ひとりに合わせた最適な支援の難しさ

クローンAIとは、人の性格や思考パターン、行動の特徴を学習し、その人らしさを理解・表現できるAIのことを指します。クローンAIが生まれた背景には、「一人ひとりに合わせた最適な支援をどう実現するか」という課題があります。たとえば教育や介護の現場では、個人の特性や背景を理解し、きめ細かい対応をすることが理想とされています。しかし、現実には人手不足という問題が大きく、従来の方法では限界がありました。

教育現場では、1人の教師が多数の生徒を同時に指導するため、どうしても画一的な授業になりがちです。生徒ごとに理解の速さや得意・不得意が違うにもかかわらず、個別に対応することは困難です。結果として、学習効果に差が生じたり、生徒のやる気が低下したりすることがあります。
介護の現場でも同様です。高齢者一人ひとりの性格や生活習慣、健康状態に応じたケアを行うには、膨大な手間と時間がかかります。現場スタッフの負担は大きく、人手が足りなくて理想的なケアが十分に行えないのが実情です。個別最適化の難しさが顕著にわかる分野と言えるでしょう。

個性を学習し、人の力を拡張するクローンAI技術

そこで当社は、生成AIの進化に着目し、クローンAI技術を活用することで人々の個性をデジタル化・構造化し、個別に対応可能な支援を実現することを目指しています。クローンAIは、個人の行動や発言の特徴、思考パターンを学習することで「その人らしさ」を捉え、より深い理解と寄り添いを提供できる存在になれると考えています。
「AIは人間に代わる存在ではなく、理解を深め、寄り添うためのツールとして活用する。」という理念のもと、当社は研究開発を進めてきました。クローンAIは、人との対話を繰り返すことで、その人の個性を学び、真に寄り添うことが可能なAIとして成長します。
人の個性は、専門的な言い方をすると、言葉使いや表情などの「表層的な個性」と、性格や思考・価値観などの「深層的な個性」から構成されます。また、その人が持つ「知識」を加えることで、クローンAIはまるで本人が会話しているかのように自然なコミュニケーションを実現します。この技術により、人間の力を拡張する新しいAIの可能性が広がると確信しています。

たとえば教育現場では、児童・生徒それぞれの個性をクローンAIが学び、データとして蓄積します。その上で各人に適した形で教育方針を検討し、それぞれに最適化した方法に変えていくことができれば、その児童・生徒の学習効果を格段に高めていけるでしょう。
AIが膨大なデータを分析し、個人の特性を理解した上で、その人に最適化された効率的な学習支援を行う。そして人間は、AIが提供する情報と洞察を活用しながら、創造性や価値観、倫理観にもとづいて意思決定を行い、方向性を定めていきます。クローンAIはあくまで補助的なツールであり、教育の本質的な部分はやはり人間が担うべきだと考えています。
また、不登校支援やオンライン教育にもこの応用が進んでいます。当社が提供する「FAMcampus」というメタバース上の教育プラットフォームでは、児童・生徒おのおのの個性や事情を理解し、その人に合った安心して学べる環境作りに役立っています。従来の大人数での画一的な教育では難しかった、きめの細かい支援も、クローンAIの力で補完できるようになります。

介護分野でも、クローンAIは高齢者一人ひとりに寄り添う支援を可能にします。その方の生活歴や性格、好みを学習したAIが、適切なケアや会話のサポートを行い、介護スタッフの負担を軽減しながら、高齢者がより「その人らしい生活」を送れるよう支援します。
クローンAIは単なる情報収集や効率化のためのツールではなく、人に寄り添い、人のもつ力を引き出すパートナーとして存在するよう、開発に取り組んでいます。

「もう1人の自分」のような存在へ

当社のAIに関する取り組みは、世の中にあるAIの基本技術を社会で使える形にし、そこに価値を付加していくアプローチです。クローンAIについては前述の通り、人間の「深層的な個性」と「表層的な個性」を多角的に分析し、それを学ばせることでその人自身を理解することです。深層的な個性とはその人が内面に持つ根本的な価値観を指し、表層的な個性とは表情や声や話し方だけでなくその人の立場による振る舞いなどの表面的な特徴です。この手法により、AIは個人の本質的な特性を理解し、「もう1人の自分」のような存在となります。
ただ、間違ってはいけないことは、AIは人間を代替するものではなく、あくまで人間の可能性を拡げてくれる「デジタル相棒」であるという点です。「もう1人の自分=デジタル相棒」と対話することによって、自分の潜在能力が引き出され、新しいアイデアや創造性が生まれることもあります。その能力は、教育や介護の分野だけではなく、マーケティングやクリエイティブの領域、さらにはエンターテインメントの分野でも活かされることが期待できるでしょう。

クローンAIが人間の潜在能力を引き出してくれる

「クローンAIと対話することによって、自分の潜在能力が引き出される」ということを、もう少し詳しく説明しましょう。
たとえば何かを生み出すクリエイティブな仕事では、自分のクローンAIと対話することで、自分では気づかなかった発想の独自性や感性が刺激され、アイデアの質を高めていくことができます。クローンAIに助けてもらうことで、自分がさらに賢くなる、と言えば大袈裟ですが、そういう実感が期待できます。
クローンAIは、人間の力を拡張するパートナーとして機能するのです。人の代わりに作業を行うのではなく、その人の思考力や創造力を高めてくれる支援を行います。そう考えると、クローンAIは日常生活でも、さまざまな場面で役に立つのではないかと思います。もちろん、最後の判断や決定を下すのは、人間自身だということが大切です。

将来的には、スマートフォンやウェアラブル端末に、例えばアプリとして「自分のクローンAI」が搭載され、常に自分を活性化してくれる存在となると面白いです。自分はいかに生きていくか、例えばキャリア形成のような場面でも、自分をサポートして良い方向に導いてくれるようになれば、こんなに素晴らしいことはありません。

「1人1クローンAI」の未来へ

私は仕事をする上で、いつも「楽は苦の種、苦は楽の種」という言葉を信じて取り組みます。最初にいろいろな苦労をして困難を乗り越えることができると、必ず将来の良い成果や結果につながります。クローンAIのプロジェクトもそうですね。始めた頃の苦労は大変でしたけど、徐々に成果が出てきて、今は未来が楽しみな状況です。クローンAIを誰もが使いこなせるようになって、「1人1クローンAI」の時代がきて、とてもハッピーな世の中になればいいなと、夢のように考えています。(杉本)

私は仕事を進めていく中で、「違和感」という直感を大切にしています。 開発の現場で、ふと「あれ?」と感じる瞬間があります。それを見過ごすと必ず後で不具合が出てきたりするのです。なのでその些細な違和感を捨てないように、直感を正しいと信じて、探りを入れたり調べたりします。AI技術はどんなに進化させても、やはり人間を超えるものではないと考えています。人が使いやすいものへと組み上げて、価値あるものにしていきたいです。(藤村)

クローンAIは、単なる自動化や効率化のためのツールではなく、人間の新しいパートナーです。AIが人を支えてくれることで、学び方や働き方、暮らし方がより豊かに変わっていきます。クローンAIは、人間の可能性を無限に広げるための技術と言えるでしょう。当社は、人とAIが互いの強みを生かし合いながら、共に成長できる社会の実現を目指していきます。

※記載の会社名、製品名は各社の商標または登録商標です。