
人にやさしく
かの有名なロックバンドの「人にやさしく」という曲があります。「ガンバレ!」と言ってもらえる、とても元気のでる大好きな曲ですが、 “人にやさしく”というフレーズそのものが一番のお気に入りです。
やさしくする相手は、家族や、友人、駅ですれ違うだけの他人など、日常生活の中で色々と置き換えられます。
システムを開発してサービスとして提供する場合はどうでしょうか。「人」は、サービス提供者(企業)、システム開発者(企業)、サービス利用者(ユーザー)、そしてシステムを安定して稼働させる運用保守者(企業)がいます。
ユーザーは使いやすいけれど、運用保守者がとても苦労をするシステムは本当によいシステムといえるでしょうか?ユーザーにはやさしいサービスを開発したのだから、あとは運用保守者が頑張ればよい、そう考えてはいませんか?サービスに関わる全員にやさしいシステム開発はありえない夢?
いいえ、そんなことはありません。
現在私がプロジェクトマネージャーを務めているプロジェクトは15年もの間、継続しています。困難な状況から始まり、決して平坦とはいえない道を歩みながらも、人と人との関係をうまく構築してきました。プロジェクトに関わる全員が互いを尊重し、人にやさしくできた証が、この15年ものプロジェクトといえるのではないでしょうか。
このプロジェクトにおけるお客様との関係性の構築について、私の経験や前任者の話を交えながら、そのプロセスをご紹介します。
信頼関係0からのスタート
当社がプロジェクトに参加した当時、新参者である富士ソフトチームがすぐに信頼を得ることは簡単ではありませんでした。現場のシステムエンジニアは当社参加前から従事している熟練者達で、当社が追加開発及び24時間365日の運用保守を任された既存システムは、天才エンジニアと呼ばれた人物が開発したものでした。サービス提供者であるお客様が、当社に対する不安や不信が少なくないことが想像できます。
そんな中、当時前任のプロジェクトマネージャーが何よりも注力したのはお客様とのコミュニケーションでした。コミュニケーションを通してどのように信頼関係を構築したのか、我々がとったアプローチを3つのポイントにまとめました。
1. お客様部門ごとに異なるアプローチで関係を構築
サービス部門、システム開発部門、それぞれに担当者を振り分け、更には既存システムエンジニア個人に対しても一対一でコミュニケーションを取れるように一人ひとり担当をつけます。対会社であったり、対個人であったり、それぞれの立場や性格に応じたやり方で関係構築をはかれるように配慮することは重要です。
2. 否定ではなく肯定からはじめる
プロジェクト体制が新しくなった時、既存のやり方を一から見直していくことは多いでしょう。今まで慣れ親しんだやり方を変える場合、内部からの反発というものは往々にしてあります。例えば、既存のやり方に対して、新しく改善の提案が必要な状況では、提案の際に必ず一度は既存のやり方について肯定することを意識しています。その上で、改善が必要な理由をきちんと伝えます。イエスバット法とも言われますが、人は一度自分を肯定してくれた相手に対して心を開きやすいため、同じ提案でも伝え方を工夫するだけで、協力してもらいやすくなるのです。
3. やりたいこと、やってもらいたいことを明確に伝えるーベテランを味方につけるべし!
経験豊富な古株ベテランメンバーは近付きがたいと、敬遠する方が多いかもしれません。しかし、ベテランメンバーは関係性ひとつで非常に強力な戦力となり私達を助けてくれます。これからどう進めていきたいか、それに伴って具体的にどのようなことを協力して欲しいかを明確に伝えます。そうすることで現在困っている事や今後目指すべき形を共有でき、具体的な助力を得ることができます。
上記3つのポイントを意識したアプローチをとっていくことで、お客様や既存メンバーとも徐々に信頼関係が構築され協力体制がとられるようになり、スムーズに開発がまわるようになっていきました。
「データが消えた!」「サイトが止まった!」
ある日、運用保守の経験者であれば誰もが血の気が引くような大障害が発生し、お客様を含めたチーム一丸となって乗り越え、開発運用保守対応に明け暮れた日々がありました。そんな中、お客様から言われた「24時間365日の対応ありがとう」という言葉は、信頼0から脱却し、お客様との関係が着実に構築できていることを大いに実感できた一言でした。
仕事におけるのりしろを大切に
私は開発者としてそのプロジェクトに携わっていましたので、前任者からプロジェクトマネージャーを引き継いだ時には、お客様との関係を0から構築する必要はありませんでした。しかし、色々な面で未熟だったため、前任者が得られていた信頼には及びませんでした。そんな中、お客様から前任者と同じだけの信頼を得られるように私が一番大事にしたことは仕事ののりしろでした。
仕事ののりしろとは、まずはサイコロの展開図を想像して下さい。のりしろが無い状態でサイコロを組み立ててみるとどうでしょうか。どこかしらに隙間ができてしまい、綺麗に組み立てることは至難の業です。この時うまれる隙間はシステム開発では「漏れ」といえます。要件定義漏れ。調査漏れ。実装漏れ。どれも聞くと背筋がヒヤッとしてしまいますね。
のりしろが重なり合うことで隙間のないサイコロを作ることができるように、システム開発も同じことが言えます。開発部門、運用保守部門、お客様が少し踏み出して、お互いの領域が重なることで確かな連結がうまれ正しい形のサービスが作られます。
具体的には、以下のことがあげられます。
・開発や運用保守部門のメンバーでもお客様のビジネス観点を理解しておく。
・開発部門はお客様にもシステム的な理解を深めていただけるよう、専門的なシステム用語ではなく平易な言葉でのコミュニケーションを行う。
・サービスを利用するユーザーの意見は全部門が把握できる仕組みを作り、改善すべき点や今後注力すべき点を認識しておく。
・運用保守チームは保守観点を開発チームへ伝え、開発チームは保守しやすい実装を行う。
難しく考える必要はありません。どうすれば分かりやすいか、どうしてもらえたら嬉しいか、相手の立場で一度考えてみるとおのずとのりしろ部分が見えてくるのではないでしょうか。
BizDevOpsという考え方
当社が推進しているBizDevOpsとは、企業のビジネス(Business)、開発(Development)、運用(Operations)の3つの部門が連携してビジネスの生産性向上を目指す概念です。
BizとDevとOpsが自分自身の領域にとらわれず垣根を超え、お互いのプロセスを把握し、お互いを尊重しあって連携を強めて進めることでビジネスを強力に推進することができます。
プロジェクトに参加した当初、上司であった前任のプロジェクトマネージャーから「なんでも良いから自分が一番になれるものを探せ」と言われ、私は「サービスや機能について一番詳しい人になる」を目標にしました。
そもそも私は文系出身の未経験中途採用入社です。単純にエンジニアとしての知識や技術で一番になることは難しかったためですが、思わぬ副次的効果もありました。
それは、カスタマーサポート部門や運用保守部門のメンバーとの連携です。サービスに詳しくなったことで、ユーザーからの問い合わせや障害発生時の再現確認など積極的に行うことができ、自然と開発以外の領域へも踏み込む結果となりました。当時は「色々な人と話ができるし知識が増えてラッキー」くらいとしか思っていませんでしたが、まさにBizDevOpsだったといえます。
人と人
前職ではテレビ番組の制作をしていました。当時新卒だった私は、入社日に配属先番組の上司にとても厳しい口調で「我々は、ロケを“させてもらっている”。取材を“させてもらっている”。仕事は相手があってはじめてできることだということを絶対に忘れるな。」と言われました。社会人初日に怒られたような衝撃も相まっていまだに忘れられません。同時に、仕事における「人と人」という概念が強くうまれた瞬間でもあり、職を変えた今なお私の中に生きています。
どんなに複雑な現場の課題も、一度解きほぐしてみると実は「人と人」という単純な構図になると思います。新しいサービスを作りたい人がいて、システムを開発する人がいる。新しいサービスを提供したい人がいて、サービスを使うユーザーがいる。
コミュニケーションを通して相手の価値観や立場を理解し互いが互いを尊重することが、結果的には、サービスに関わる全員にやさしい、夢のようなシステム開発の実現につながるはずです。
ご紹介した手法が、夢の実現へ向けた第一歩となれば幸いです。
漠然とした悩みでもお気軽にご相談ください。お客様に寄り添い、共に課題を明確にして、柔軟な対応でベストプラクティスをご提供します。