
多様な生成AIモデルを活用し、AWSユーザーが簡単にアプリを構築・デプロイできるサービスとして注目の「Amazon Bedrock」。前編では、その入門書の共著者3名が考える生成AI活用について、執筆時から現在までのトレンドを振り返りました。後編となる本コラムでは、ユニークな活用事例や、よくある課題への向き合い方、さらに各自の視点による未来展望や、AI時代を生き抜くエンジニアへのヒントについてご紹介します。
(前編)Amazon Bedrockのこれまでと今はこちらから
<プロフィール> ※左から
森田 和明
富士ソフト株式会社 エリア事業本部 西日本支社 第2システム部 第5技術グループ
主任 / フェロー
2024 Japan AWS Ambassador / 2024 Japan AWS Top Engineer /
2024 Japan AWS All Certifications Engineer / AWS Community Builder
熊田 寛氏
株式会社Relic 先端テクノロジー研究開発リード
2023 Japan AWS All Certifications Engineer
御田 稔氏
KDDIアジャイル開発センター株式会社 テックエバンジェリスト
AWS Hero、AWS Samurai、2024 Japan AWS Top Engineer & All Certs
本人そっくりの“本部長AI”が稼働中

―Amazon Bedrockを活用して最近手がけられた生成AIプロジェクトについて、可能な範囲でお聞かせいただけますか。
森田:私は生成AIに社内データベースを参照させるRAG(検索拡張生成)を、問い合わせ対応の効率化策としてご提案することが多いです。文書作成支援ツールなどに組み込み、直接見えない背後の処理に使うこともあります。
熊田:私は今回の本でも紹介したAIアプリ開発プラットフォームの「Dify」を使って、とある企業で従来手作業だった調査業務の効率化に取り組んでいます。まだテスト段階ですが、人が指示を出すだけで作業がほぼ完結し、7~8割のコスト削減になる見込みです。
御田:私はAIエージェントの開発が多いです。“営業会議の録音ファイルから、議事録と次回提案資料のたたき台を作るアプリ”など用途を絞り、初心者も迷わず使えることを心がけています。
最近好評だったのは、部下の営業提案書をレビューする「A-BOSS(本部長AI)」です。考えているような表情の似顔絵アイコンが動き、処理が終わると本人そっくりの口調で「ようできてるやないか」などと回答します。
―本人そっくりのAIとは興味深いですね。
御田:A-BOSSのプロンプト(指示文)には“顧客のメリット”をはじめとする確認項目や、“ビジネス寄りの大阪弁”という口調、さらに本部長本人にヒアリングした考え方を書き込み、大事な検討項目は試行回数を指定しています。社内規程を踏まえた回答ですが、かなり本人らしい答えが返ってくるようになりました。
森田:AIの無機質さを感じさせない擬人化は大事ですね。もし価値観まできめ細かく再現できれば、上司全員をシミュレートして大事な稟議前のブラッシュアップに使えそうです。
熊田:生い立ちや、スマホ経由で得られるライフログも長期記憶として反映したら、本人の人格にどこまで近付くかも気になります。いつか試してみたいですね。
言語化して指示 課題解決するエンジニアの役割は不変

―進化が著しいAIによって、仕事のあり方、人の役割はどんどん変わっていきそうです。
御田:プログラミングがまさにそうです。私の周囲では既に8割方のエンジニアが、生成AIと一緒になってコードを書いています。
「いずれAIに全部丸投げできるようになる」と、仕事に不安を覚える人もいるようですが、むしろスキルが高い人ほど新しい技術を積極的に学び、AIを“部下”として使いこなして成長を加速させている印象です。
熊田:ご支援先の企業でも、生成AIの基本を理解し、情報への感度がエンジニア並みの方が増えている印象で、開発を依頼されるというよりも“一緒に作る”感覚に近付いています。
元々プログラミングは“やりたいことを言語化してコンピューターに指示する”ためのもので、身近な自然言語で指示を出せる生成AIも近しい構造を持っています。エンジニアにとって最も重要なのは指示を出す前に、“課題解決のために何をやるべきか”を考えることであり、この本質は今後も変わらないはずです。
森田:私は絵が大の苦手ですが、生成AIに頼めば欲しいイラストがすぐ生成されるので、ブログや動画で活用しています。今後も質にこだわる場面ではその道のプロへの依頼が続くでしょうが、“自分がやりたくてもできないことが可能になった”という、ゼロから1への進歩はチャンスだと感じます。
100点とは限らない回答の実践的な活用法

―生成AI活用を進める中で直面しがちな、課題に対する考え方もお聞かせください。
森田:生成AI活用によって、人やITに対する期待とのギャップを生まないことが大切だと思います。例えば、生成AIの“嘘”(ハルシネーション)がよく問題視されますが、本心を隠したり、会話で誘導したりする人間のほうが、ある意味よほど嘘つきです(笑)。ここで重要なのは、「システムなら毎回同じ答えを出すはずだ」という期待値とのズレを調整することです。
また、私が下書きした本の原稿をAIがどれほどきれいに整えても、そのまま提出することはできません。最後に手を入れて確認するのは、名前を出して責任を持つ人間の役割です。
熊田:今後MCP(Model Context Protocol:前編参照)を通じ、さまざまな生成AIがスムーズにつながれば、便利になる一方で危険性も増していきます。“全力で誤情報を拡散したAIに代わって人間が謝罪に回る”といったことがないよう、特にクリティカルな用途では、あらかじめ人のジャッジを組み込んでおくのが正攻法だと思います。
御田:生成AIの運用手法であるLLMOpsについては前編で触れましたが、その一環として、生成された回答に含まれるハルシネーションを別のAIで検出・評価できるツールも登場しています。例えば「Ragas」というツールを使うと、AIモデルの出力内容をユーザーの質問内容、さらに参照した情報と照合し、いわば“嘘つき度”をスコア化することが可能です。算出したスコアを「Langfuse」というツールで利用履歴と紐付けて、見やすく管理することもできます。これにより、スコアが特に悪い箇所を人の目で重点的に確かめるという、効率的なチェック体制が可能になってきました。
ただ、当面は主に使いどころが問題だと思います。内容的に70点を取れれば足りる用途、例えば社内メールの返信はAIに任せてしまう一方、お客様に対する返信は引き続き人が担い、AIは補助や提案にとどめるといった使い分けも考えられます。
「AIに聞きながら、とりあえず始めてみる」AI活用

―最後に、Amazon Bedrockを含めて生成AI関連のスキルを伸ばしたいエンジニアへのアドバイスをお願いします。
御田:私たちの本では、Amazon Bedrockの説明をベースに生成AIについての本質的な考え方が一通り身に付くよう工夫し、実際に動くものを作って理解するハンズオンも用意しています。一度読み込んでもらえれば、分からないところをAIに聞きながら日々の情報をアップデートしていくことで、どんどん吸収していけると思います。
森田:生成AIにMCPを利用することで、Web検索などAI以外の機能も組み合わせながら、やりたいことに応じた柔軟なアプリ開発が可能になってきました。これによりAWSの標準サービスだけに縛られず、必要な機能を自由に組み合わせる発想が広がり、開発者はより創造的なソリューションを実現できるようになると考えています。
まずは「とりあえず始めてみる」のが一番です。さまざまなツール・サービスを広く浅く試して、どれが自分の興味・やりたいことに近いか、当たりをつけていくのがよいと思います。
熊田:あとは、話題の技術を片っ端から触っていくといいですね。試した他のユーザーの感想やナレッジがたくさん流れてくるので、有益な情報が見つかりやすいと思います。
―とても盛りだくさんのお話でした。ありがとうございました。
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