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オンプレミスを抱えながらクラウド活用を進める企業の間で注目を集めるハイブリッドクラウド。コストや運用管理性のハードルを乗り越えるメリットをどこに見いだすべきか、VMware、AWS、富士ソフトの3社が熱く語る。

クラウドファースト/クラウドノーマルといった今日においても、オンプレミスを抱える企業は少なくない。全てのシステムをクラウドに移行することは難しいためだ。こうした中、業務部門主導で利用が進むクラウドとオンプレミスシステムの連携ニーズに応えるハイブリッドクラウドに注目が集まっている。一方で幾つかの要因から「現段階においては、ハイブリッドクラウドを見送った」というケースもある。

「クラウド移行を検討する上で多くのお客さまが気にされるのはやはりコストです。さらに管理負荷やオンプレミスとクラウド間でのネットワーク遅延などがハードルとなり、移行が現実的でないと判断されてしまっていたケースも少なくありません」と語るのは、SIerとして一線で活躍する、富士ソフトの山本祥正(ソリューション事業本部インフラ事業部 エグゼクティブフェロー)だ。  

今回はヴイエムウェアの黒岩宣隆氏(ソリューションビジネス本部クラウド技術統括部 リードクラウドスペシャリスト)、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS Japan)の河原哲也氏(パートナー技術本部ISVソリューション部 部長)を加えた3名で「ハイブリッドクラウドのメリットをどう極大化するか?」をテーマに議論を交わしてもらった。

ビジネスの変化に柔軟、迅速に対応できるハイブリッドクラウド

AWS Japan 河原氏 コストや運用管理の負荷、ネットワークなどを懸念してオンプレミスとクラウドのハイブリッド活用をためらう声はありますが、実際のところ企業規模を問わず、クラウド利用はものすごい勢いで増え続けています。AWSでいえば世界で数百万、日本でも10万を超えるお客さま(アクティブカスタマー)に既にご利用いただいており、全てのシステムをAWSに移行するオールイン、ハイブリッドなど、活用形態もさまざまです。

ヴイエムウェアの黒岩宣隆氏

VMware 黒岩氏 クラウドファーストで「所有するモデル」から「利用するモデル」への移行を経営方針としているお客さまであっても、大抵オンプレミスは残ります。そうしたお客さまにとってはハイブリッドクラウドが一つの解になります。お客さまに対してわれわれは「システムによってそれぞれ最適な場所で動かしましょう」とお伝えしています。コストやパフォーマンス、技術的な問題などを考慮し、オンプレミスとクラウドを問わず「より最適な方式を柔軟に選べる」「より幅広い選択肢を提供する」ことがハイブリッドクラウドの価値ではないでしょうか。

河原氏 ハイブリッド活用は、単純に今ある一部のシステムをクラウドにリフトするだけでなく、DR(災害復旧)としてクラウドにリカバリーサイトを用意したり、オンプレミスのリソースが足りなくなったときだけデータセンターをクラウドで拡張(クラウドバースト)したりと、ユースケースも格段に増えています。

富士ソフト 山本 お二人のお話の通り、今、企業のICTは劇的に変化しつつあり、お客さまからもICTプラットフォームをどうしていくべきか、多くのご相談を頂いています。CIOの方々にお話しを伺うと、ビジネスの変化に柔軟かつ迅速に対応できるICTプラットフォームを求めていらっしゃるという共通点が見られます。変化するニーズや要件に応じてオンプレミスとクラウドを柔軟に使い分けられるハイブリッドクラウドは、幅広い選択肢が求められる現代にマッチした仕組みだと思います。

黒岩氏 「仮想化、そしてクラウドの活用でソフトウェアとハードウェアを抽象化し、ハードウェアのライフサイクルに縛られることなく、絶えずICTのモダナイゼーションを図る」というオンプレミスの考え方は、VMwareが提唱するアーキテクチャのSoftware-Defined Data Center(SDDC)につながるものです。次の段階として「オンプレミスとクラウドを自由に行き来できる仕組みであるハイブリッドクラウドに行きましょう」と提案しているのが「VMware Cloud on AWS」です。

守りから攻めへ、顧客の意識を変える「VMware Cloud on AWS」

黒岩氏 VMware Cloud on AWSはハイブリッド活用を支援するクラウドサービスです。AWSの仮想サーバサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(以下、Amazon EC2)のベアメタルサーバに、われわれVMwareがハイパーバイザー(サーバ仮想化ソフトウェア)である「VMware vSphere」をインストールします。その上にストレージ仮想化ソリューション「VMware vSAN」とネットワーク仮想化ソリューション「VMware NSX」を構成し、お客さま専用の環境として提供します。VMware製品でオンプレミスのシステムを運用されているお客さまは、使い慣れた管理ツール「VMware vCenter」での操作性を維持したまま、クラウドにデータセンターを拡張できます。

VMware Cloud on AWS概要図。サービス提供範囲は青い部分

VMware Cloud on AWSは、お客さまのデータセンター(オンプレミス)とAWSのグローバルインフラ(クラウド)をつなぐネットワークが重要なポイントです。お客さまの多くは、なるべくネットワーク設定などを変えずに既存システムをクラウド移行したいというニーズをお持ちです。VMware Cloud on AWSはL2延伸により、オンプレ環境のネットワーク設定を変えずに電源オンのままオンプレミスとクラウドの間で仮想マシンを自由に行き来させることができます。

もう一つ、既にAWSの何らかのサービスをオンプレミスと連携させて利用しているお客さまは、オンプレミスのシステムをVMware Cloud on AWSに移行することで、25Gbpsという高速なネットワークでAWSのネイティブサービスを利用できるようになります。操作性を変えずに低遅延を実現する“いいとこどり”のサービスといえます。

河原氏 これまでは「VM Import/Export」や「AWS Server Migration Service」(SMS)でVMwareの仮想マシンをAmazon EC2にコンバート(変換)するといったひと手間が必要でしたが、VMware Cloud on AWSならオンプレミスのシステムを「VMware vSphere vMotion」でそのままクラウドに持っていけます。AWSのグローバルインフラのメリットも大きく、例えばDRのケースなら、東京にデータセンターを持つお客さまがシンガポールのリージョンにリカバリーサイトを構築することも簡単です。グローバルにビジネスを展開されている場合、それぞれ現地でデータセンター事業者やハードウェアベンダーと契約する必要がなく、VMware Cloud on AWSのコンソールでリージョンを指定してSDDCを作成し、VMware vCenterで仮想マシンをデプロイするだけで済み、迅速なビジネス立ち上げに貢献します。

AWS Japanの河原哲也氏

大規模なアプリケーション移行という点ではERPパッケージや「Oracle Database」「Microsoft SQL Server」といったミッションクリティカルなシステムを想定しており、こうしたアプリケーションを利用している企業にも自信を持って薦められます。その他、バックアップやセキュリティ、ネットワークといった独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の製品やサービスも含めて、シームレスにVMware Cloud on AWSに移行できることも大きなメリットといえるでしょう。

山本 例えば、グローバルインフラについては「AZ」(アベイラビリティーゾーン)をまたいで「vSANストレッチクラスタ」を構成できます。オンプレミスでもコストと手間を掛ければできないことはないのですが、VMware Cloud on AWSの場合、いとも簡単に、かつ手軽に高可用性を実現できてしまうのがすごいところです。

河原氏 セキュリティ面でもISO/IEC 27001:2005(情報セキュリティマネジメントシステム認証のための要求事項)やSOC(System & Organization Control)レポートなど、いわゆる第三者認証を幅広くカバーしているので、お客さまは毎年監査を受けて更新する必要がなくなります。ハイパーバイザーのパッチ適用もVMwareが実施するので、オンプレミスからVMware Cloud on AWSに移行するだけでTCO(総保有コスト)を大幅に削減できます。

黒岩氏 パッチ適用はシステム停止なしで実行されますし、アップグレードについても、お客さまの手を煩わせることはありません。お客さま自身でやるとなると3カ月あるいは半年単位でのプロジェクトとなるだけに、そのメリットはかなり大きいといえるのではないでしょうか。

山本 黒岩さんの仰る通り、実際、保守・運用管理など“守り”の時間を極力減らして、自社のICTをいかに進化させていくかの“攻め”に注力していきたいという声はよく聞きます。VMware Cloud on AWSなら、簡単かつ迅速に環境を用意でき、新サービスのローンチを早めることにもつながります。

富士ソフトの山本祥正

また最近では、VMware Cloud on AWSを導入されたお客さまから「AWSのネイティブサービスとの連携など、何か新しいことをやってみたい」とお声掛けをいただくケースが増えています。ある製造業のお客さまとは「VMware Cloud on AWSに建てた仮想サーバのデータ格納先として、AWSのストレージサービス『Amazon Simple Storage Service』(Amazon S3)を指定し、蓄積されていた画像データを『Amazon SageMaker』に機械学習させる」といった取り組みを進めています。VMware Cloud on AWSがお客さまの意識を“守り”から“攻め”に変えるトリガーになっている印象です。

河原氏 VMware Cloud on AWSのプラットフォームはAmazon EC2のベアメタルインスタンスを利用しているため、現在165種類以上あるAWSのネイティブサービス群とシームレスにつながります。山本さんが挙げられた例のような新しいイノベーション領域だけでなく、プラットフォームサービス部分の機能補完として活用できます。例えば、VMware vSANについてNVMe接続のローカルストレージだけでなく、ネットワーク型のブロックストレージ「Amazon Elastic Block Store」(EBS)の利用も今後可能となり、ストレージの拡張性や柔軟性が格段に向上します。他にも「AWS Key Management Service」(KMS)を用いたディスク暗号化の仕組みなど、根幹となるセキュリティの領域においても連携して統合的に運用できます。

山本 次々と矢継ぎ早に新しい機能やサービスが追加されるので、われわれもシステムインテグレーター(SIer)としてキャッチアップしていくのがなかなか大変です。AWSの「AWS re:Invent」やVMwareの「VMworld」に参加して情報収集していますが、カテゴリーの多さや深さに圧倒されてしまいます。最近はお客さまからすぐに「あれはどうなの? いつから導入できる?」と問い合わせが頻繁に入るので、常に最新のテクノロジー情報をウォッチし、お客さまに発信・提供できるように努めています。

河原氏 特にハイブリッド活用の場合「オンプレミスとクラウドそれぞれの特徴を知り尽くした上でどちらに振るか判断する」といった辺りの目利きができるかどうかが重要になってきます。お客さまにとっても、自社のICTをモダナイズし続ける上でパートナー選びは大変重要でしょう。

大規模アプリケーションにも対応し、幅広い企業が注目

黒岩氏 オンプレミスでVMware vSphereを使ってERPや大規模なデータベースなどを動かしているお客さまでも、こうしたアプリケーションがVMware Cloud on AWSで使えるならやってみようかという声が増えつつあります。機敏性や柔軟性だけでなく、最新のテクノロジーに触れることで刺激を受け、自社のICTについて考えるきっかけになる……というメリットもありそうです。

河原氏 これは既に発表済みですが、VMware Cloud on AWSは大阪ローカルリージョンからの提供も予定しています。今後は「日本国内で閉じた形でDR環境を構築したい」というニーズにも応えられるようになります。「Amazon Relational Database Service on VMware」(RDS on VMware)や「AWS Outposts」のようなクラウドのテクノロジーをオンプレミスで利用できるサービスも予定しており、今後にご期待いただければと思います。

富士ソフトがVMwareから表彰された「VMware 2018 Regional Partner Innovation Awards」のトロフィー

山本 VMware Cloud on AWSの登場によって、ハイブリッドクラウドは多くの課題を解決できるソリューションへと進化しました。過去にクラウド利用を断念したお客さまからも、改めてハイブリッドクラウドを検討したいとお問い合わせを頂くケースも増えています。富士ソフトは、2017年にVMware Cloud on AWSがリリースされてすぐ、オレゴンリージョンで検証を開始しました。東京リージョンの提供開始前にはほぼ検証を終えてその結果などの情報を発信しており、VMware Cloud on AWSについては一日の長があると自負しております。そうした取り組みが評価され、VMwareからSI(システムインテグレート)に関するグローバルのアワードを頂きました。これからも両社との密なコミュニケーションでビジョンを共有しつつ、お客さまの“ICTジャーニー”を成功へと導くパートナーであり続けたいと思います。

富士ソフトのVMware 仮想化ソリューションについて、詳しくはこちら
VMware 仮想化ソリューション

※この記事は、TechTarget Japan(https://techtarget.itmedia.co.jp/)およびキーマンズネット(https://www.keyman.or.jp/)に2019年5月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。

 

 

この記事の執筆者

山本 祥正
山本 祥正Yoshimasa Yamamoto

執行役員
ソリューション事業本部 副本部長

クラウド 仮想化 Vmware Tanzu