
なぜポストモーテムはうまくいかないのでしょうか?
障害が発生し、報告し、会議を開いた。しかし、改善策は曖昧なまま――そんな経験はありませんか?
本来、ポストモーテム(障害発生後の振り返り)は学びの場であるはずです。
それなのに、なぜ私たちのポストモーテムは、いつも「反省会」で終わってしまうのでしょうか?
本当の課題はどこにある?
障害を発生させたメンバーでしょうか?
そのメンバーを管理していた管理者でしょうか?
それとも、障害そのもの?
実は、本当の課題は「文化」にあるのかもしれません。
- ポストモーテムを書かない文化
- 書いても改善しない文化
- 「気合が足りない」で片付ける文化
- 個人の責任に終始する文化
- ミーティングの雰囲気が重く、活気がない文化
ここで重要なのは、感情と事実を分ける視点です。障害対応には怒りや焦り、悔しさといった感情が伴います。しかし、ポストモーテムではそれらを一度脇に置き、冷静に事実に向き合うことが必要です。感情に引きずられた議論は、責任追及に傾きやすく、改善にはつながりません。
ポストモーテムについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
「ポストモーテム」をご存じですか?~ インシデントはプロジェクトの問題である ~
/blog/10655/
良い雰囲気をつくるために
ポストモーテムは、場の雰囲気で決まります。誰も話さない、誰も責めない、誰も褒めない――そんな場では、何も生まれません。雰囲気を良くするためには、まず「報告したことを評価する」ことから始めましょう。
- 早期に発見できた
- ユーザー影響が小さかった
- 初動対応が正しかった
- 適切な報告・連携ができた
これらはすべて「褒めるべきこと」です。ポストモーテムは、責める場ではなく、称える場でもあるべきです。さらに、ここで重要なのが「Blame-Free(責めない)原則」です。これは、障害の原因を「誰が悪いか」ではなく、「なぜ起きたか」に焦点を当てる考え方です。責任追及を避け、システムやプロセスの改善に集中することで、再発防止につながります。
Blame-Freeのポイント:
- 個人を責めない。原因はプロセスや仕組みにあると考える。
- 「なぜ?」を繰り返し、根本原因を探る。(例:なぜなぜ分析[5Whys])
- 会議の冒頭で「責めない文化」を明言する。
この原則を徹底することで、メンバーは安心して事実を共有でき、改善策が前向きに議論される場になります。
AIの活用で客観性を高める
事実に基づいた評価を行うために、AIの力を借りることもできます。AIは人間の感情や立場に左右されず、客観的に事実を整理します。
たとえば:
障害ログや監視データを解析し、再発防止策を提案
→ 例:AWS社のAmazon CloudWatchでログを集約し、AIで異常検知や原因分析を自動化し、
過去の対応履歴をもとに改善策を提示。
→ 例:AI Ops系サービス(Datadogなど)を活用し、類似障害のパターンを学習して再発防止策を提案。
会議の議事録を整理し、建設的な意見を可視化
→ 例:Google Meet+GeminiやMicrosoft Teams+Copilotで議事録を自動要約し、改善アイデアを抽出。
AI Ops(AIによる運用自動化)の考え方は、障害対応のスピードと精度を高める有効な手段です。AIはチームの雰囲気そのものを変えることはできませんが、データに基づいた透明性を提供し、議論を「感情」ではなく「事実」に基づかせる強力な武器になります。
意見が出る文化を育てる
意見が出ないのは、出しても意味がないと思われているからです。改善されない、聞いてもらえない、責められるだけ――そんな場で誰が本音を言うでしょうか?
ここで重要になるのが「心理的安全性(Psychological Safety)」です。これは、Google社が行った有名な研究「プロジェクト・アリストテレス」で、高い成果を出すチームの共通点として最も重要だとされた要素です。
心理的安全性とは、「この場で発言しても、罰せられたり、笑われたりしない」という安心感のことです。さらに、心理学の帰属理論(Attribution Theory)によれば、人は失敗の原因を「個人の能力や努力(内的要因)」に帰属しやすい傾向があります。障害対応でも「誰が悪いか」に焦点が当たりがちです。しかし、ポストモーテムでは「なぜ起きたか」に焦点を当て、原因をプロセスや仕組み(外的要因)に帰属させることが重要です。これにより、責任追及ではなく再発防止に集中できます。
心理的安全性を高める工夫:
- 会議の冒頭で「責めない文化」を明言する
- 発言を遮らない、否定しない
- 小さな改善提案でも感謝を示す
心理的安全性がある場では、メンバーは失敗を隠さず共有し、改善策を積極的に出せるようになります。これは、単なる雰囲気づくりではなく、組織の学習能力を高めるための必須条件です。
次回のポストモーテムで試せる3つの実践ステップ
1)「褒める」から始める
会議の冒頭で、障害対応における良かった点を必ず3つ挙げましょう。
例:「早期発見できた」「影響範囲を最小化できた」「報告が迅速だった」。
これにより、場の空気が前向きになり、責任追及モードを防げます。
2)「事実ベースのタイムライン」を共有する
感情や推測を排除し、時系列で事実のみを整理したタイムラインを提示。
例:「10:05 障害検知」「10:10 初動対応開始」「10:30 ユーザー影響確認」。
これにより、議論が冷静になり、改善策の精度が上がります。
3)「意見を出しやすい仕組み」を導入する
会議前に匿名で意見を集めるフォームを用意。
SlackやTeamsで「改善アイデア」を事前投稿できるチャンネルを作成。
こうした仕組みがあると、心理的安全性が高まり、本音の意見が出やすくなります。
まとめ
次のポストモーテムから、まずは「褒めること」を取り入れてみませんか?ポストモーテムは、責める場ではなく、学びと称賛の場であるべきです。そのためには、感情と事実を分け、良い雰囲気を保ち、意見を出せる文化を育てることが必要です。さらに、AIの客観性を活かすことで、改善の精度とスピードを高めることもできます。
文化は一朝一夕では変わりません。しかし、ひとつのポストモーテムから変えていくことはできます。まずは、雰囲気を良くし、事実に向き合い、そして褒めることから始めましょう。




