名古屋大学との共同研究

当社がAUTOSARに加入し、本格的に共同研究に取り組み始めたのは2008年です。

当時はまだ、AUTOSARは日本で普及しているとは言えない状況でしたが、組込みリアルタイムOSの第一人者である高田広章教授がセンター長を務めている名古屋大学大学院情報科学研究科(※1)附属組込みシステム研究センター(NCES)では、AUTOSARに含まれるOSの研究開発が行われていました。その成果を活かす目的で、2011年度よりAUTOSARに興味のある複数企業と共にAUTOSARプラットフォームに関するコンソーシアム型共同研究が開始され、当社も参加しました。

※1 2017年4月より名古屋大学大学院情報学研究科に改組されました

コンソーシアム型共同研究は、2011年から6年間実施され、OSだけでなく、RTE、COMスタック、WDGスタックなどの開発も行いました。当社からは、私を含め数名のエンジニアがNCESに常駐し、各モジュールの開発に携わりました。研究成果を2013年にドイツで開かれたAUTOSAR Open Conferenceで紹介し、ET2013(Embedded Technology 2013)組込み総合技術展では開発したOS(TOPPERS/ATK2)がETアワード(※2)を受賞するなど、NCESを中心にしたAUTOSARへの取り組みを各方面へアピールしてまいりました。

※2
Embedded Technology 2013 ETアワード オートモティブ/交通システム部門 優秀賞
TechVillage(2013/12/6) 車載プラットフォーム標準化の流れにキャッチアップしつつ,よりよい仕様を提案 ―― 「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(1) 名古屋大学

この研究開発の成果の一部は、高田教授が会長を務めるTOPPERSプロジェクト(※3)から一般公開されており、誰でも入手することができます。

※3 TOPPERSプロジェクト
OS
RTE
COMスタック
WDGスタック

AUTOSAR開発体験キットの開発、販売

コンソーシアム型共同研究が始まって3年ほど経過し、OS、RTE、COMスタックなどのモジュールが揃ってきました。しかし、実際にこれらのモジュールを用いてアプリケーションを開発する部分については、あまり着手できていませんでした。また、メソドロジーに関する仕様書が膨大に存在し、インターネットで調べても抽象的な説明が中心で、具体的に「AUTOSARを使って開発する」ということが分かりにくい状況でした。

そんな状況の中で、手探りではありましたが、AUTOSARに対応した商用ツールを使用し開発したモジュールを動かして、いくつかのサンプルアプリケーションを開発した結果、「これは実際に手を動かしてみないと理解できない」と強く感じました。AUTOSARに取り組む各企業が同じように手探りで理解しているのだとしたら非常に勿体無いと思い、当社はNCESとの共同研究成果を活かし、実際に手を動かしてAUTOSARを用いた開発が体験できる教材を開発することにしました。

AUTOSARを使用する上で必須となるものに、システム設計やBSWのコンフィギュレーション情報を定義したXML(AUTOSARではarxmlという拡張子を用います)を作成するツールがあります。商用のツールがいくつか販売されていますが、どれも安価ではなく、学習用として購入するにはハードルが高い状況でした。そんなとき、AUTOSARパートナー企業であれば無償で商用使用が可能なArtop(※4)というツールを知りました。

※4 Artop

Artopは、Eclipseベースで開発され、AUTOSARで規定されたモデルが実装されており、システム設計やBSWのコンフィギュレーション情報を定義したarxmlファイルを、GUIにより作成することができます。

また、ArtopのサブプロジェクトであるARTextでは、テキストベースでモデリングすることができ、学習用のサンプルアプリケーション用のツールとしては十分な機能を備えていました。ただし、当時使用したArtopにはarxmlファイルを作成する上での不具合がいくつかあり、当社で修正を行いました。

Artopによりツールの問題が解決できたため、安価で入手しやすいマイコン評価ボードとNCESで開発したモジュールを組み合わせ、実際にAUTOSARを用いた開発を体験できる教材「AUTOSAR開発体験キット」を2015年に販売開始しました(※5)。

※5 車載ソフトウェア技術者向け「AUTOSAR開発体験キット」を販売開始 ~AUTOSARテクノロジーを日本語で学び、エンジニア育成を促進!~

想像した通りAUTOSARの具体的な開発を知りたいニーズは高く、すぐに計画以上の台数を売り上げました。ニーズが高いことを受け、既存のキットをさらに拡張し、2つの評価ボードをCANケーブルで接続することにより、ECUを跨ぐアプリケーション開発を体験できる「AUTOSAR開発体験キット COMスタック編」の提供も同年に開始しました(※6)。

※6 車載ソフトウェア技術者向け「AUTOSAR開発体験キット」 ECU間アプリケーション開発の「COMスタック編」を販売開始

前回の「自動車業界を支える“AUTOSAR”の国内状況とは」の通り、AUTOSARの国内でのニーズの高まりもあり、AUTOSAR開発体験キットはこれまで100を超えるユーザ様にご活用頂いております。

 

鴫原 一人博士(情報科学)
鴫原 一人(Kazuto Shigihara)

ASI事業部
次長 / エグゼクティブフェロー

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます。
組み込み機器を堅牢化する3つの考え方
column
セキュリティというと、「後付けのセキュリティ対策で守るもの」と思われがちですが、機器自体が堅牢であることが大前提です。機器の堅牢性だけでは守...