セキュリティ運用の理想と現実

企業のセキュリティ担当者にとって、理想的なセキュリティ対策を実現することは大きな挑戦です。ゼロトラストや高度な監視体制といった最新のセキュリティモデルが注目される一方で、限られた予算や人材の中で現実的な運用を実現することは容易ではありません。
本記事では、セキュリティ運用における理想と現実のギャップを明らかにし、企業規模や業種に応じた現実的なアプローチを解説します。完璧を追い求めて導入が進まない状況から脱却し、段階的で実現可能なセキュリティ対策を進めていきましょう。

セキュリティ運用の基本

セキュリティ運用は企業の情報資産を守るための継続的な取り組みです。単なる技術導入ではなく、組織全体で実践する仕組みとして捉える必要があります。まずはセキュリティ運用の基本的な考え方を理解することが重要です。

セキュリティ運用とは

セキュリティ運用とは、企業の情報システムやデータを脅威から保護するための継続的な監視・分析・対応の活動を指します。これには脅威の検知、ログの分析、インシデントへの対処、セキュリティポリシーの更新などが含まれます。従来の境界型防御では、ネットワークの内部と外部を明確に区別し、境界におけるセキュリティ対策に重点を置いてきました。
しかし、クラウド環境の普及やリモートワークの増加により、従来の境界が曖昧になっています。セキュリティ運用も単なる境界防御から、システム全体を継続的に監視し、異常を早期に発見する仕組みへと変化しています。この変化に対応するためには、運用プロセスそのものを見直す必要があります。

セキュリティ運用の目的

セキュリティ運用の主な目的は、サイバー攻撃やデータ漏洩などのインシデントを未然に防ぐことです。加えて、万が一インシデントが発生した場合でも、迅速に検知し、被害を最小限に抑えることも重要な目的となります。セキュリティ運用では、予防と対応の両面からアプローチします。
また、セキュリティ運用は企業のコンプライアンス要件を満たすためにも不可欠です。個人情報保護法やISO27001などの規格では、継続的なセキュリティ管理が求められています。適切な運用体制を整備することで、法令遵守と企業の信頼性向上の両方を実現できます。

セキュリティ運用の範囲

セキュリティ運用の範囲は、ネットワーク監視からエンドポイント管理、ID管理、アクセス制御まで多岐にわたります。具体的には、ファイアウォールやIDS/IPSなどの監視機器の運用、ログ収集と分析、脆弱性管理、セキュリティパッチの適用などが含まれます。さらに、利用者への教育やセキュリティポリシーの整備も運用の重要な要素です。
近年では、SIEMやSOARといったセキュリティ自動化ツールの導入も進んでいます。これらのツールを活用することで、大量のログデータから異常を検知し、対応を自動化することが可能になります。ただし、ツールの導入だけでは十分ではなく、運用体制や手順の整備が必要です。

運用領域 主な活動 対象範囲
監視・検知 ログ分析、異常検知、脅威情報収集 ネットワーク、サーバー、エンドポイント
対応・復旧 インシデント対応、原因調査、復旧作業 全システム、データ
予防・改善 脆弱性管理、パッチ適用、ポリシー更新 全体的なセキュリティ体制

セキュリティ運用の必要性

企業を取り巻くサイバー脅威は年々増加しており、セキュリティ運用の重要性は高まり続けています。単にセキュリティ製品を導入するだけでは不十分であり、継続的な運用が求められる背景を理解することが重要です。ここでは、セキュリティ運用が必要とされる具体的な理由を解説します。

情報資産を守る重要性

企業が保有する顧客情報や営業秘密、技術情報などの情報資産は、企業価値の重要な構成要素です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の信頼失墜や損害賠償、取引停止など、深刻な影響が生じる可能性があります。セキュリティ運用は、こうした情報資産を継続的に保護するための仕組みとして機能します。
特に製造業においては、OT環境の情報も重要な資産となります。生産ラインの設定情報や製造ノウハウが漏洩すれば、競争力を失う可能性があります。IT環境とOT環境の両方を包括的に保護するセキュリティ運用が求められています。

インシデント対応の迅速化

サイバー攻撃は高度化・複雑化しており、完全に防ぐことは困難です。そのため、インシデントが発生した場合に迅速に検知し、適切に対応できる体制を整えることが重要になります。セキュリティ運用では、異常を早期に発見し、被害の拡大を防ぐための手順を確立します。
インシデント対応の遅れは、被害の拡大や復旧コストの増加につながります。適切な運用体制があれば、初動対応から原因調査、復旧までを体系的に進めることができます。また、過去のインシデントから学び、再発防止策を講じることも運用の重要な役割です。

コンプライアンス要件対応

個人情報保護法や業界固有の規制など、企業が遵守すべきセキュリティ関連の法令や規格は増加しています。これらの要件では、セキュリティポリシーの策定だけでなく、実際の運用状況の記録や監査への対応が求められます。適切なセキュリティ運用は、コンプライアンス要件を満たすための基盤となります。
また、取引先からセキュリティ体制の証明を求められる場面も増えています。第三者認証の取得や監査対応のためにも、継続的なセキュリティ運用の記録が必要です。運用の可視化と文書化は、企業の信頼性を示す重要な要素となっています。

セキュリティ運用の課題

理想的なセキュリティ運用を実現するためには、多くの課題を克服する必要があります。特に中堅企業や中小企業では、限られたリソースの中で効果的な運用体制を構築することが大きな挑戦となります。ここでは、多くの企業が直面する現実的な課題を解説します。

専門人材の確保が困難

セキュリティ運用には高度な専門知識が必要ですが、国内ではセキュリティエンジニアの人材不足が深刻化しています。最新の攻撃手法やセキュリティ技術を理解し、適切に対応できる人材を確保することは容易ではありません。特に中小企業では、専任のセキュリティ担当者を配置することすら難しい状況です。
また、セキュリティ人材を育成するには時間とコストがかかります。外部研修や資格取得支援を行っても、育成した人材が転職してしまうリスクもあります。人材確保と育成の両面で継続的な投資が必要となりますが、多くの企業にとって大きな負担となっています。

24時間体制の維持負荷

サイバー攻撃は時間を選ばず発生するため、理想的には24時間365日の監視体制が求められます。しかし、自社でこうした体制を構築するには、複数のシフト勤務要員を確保する必要があり、人件費の負担が大きくなります。特に夜間や休日の体制維持は、中堅企業以下では現実的に困難です。
加えて、監視業務は継続的な集中力が必要であり、担当者の負担も大きくなります。疲労やストレスによるヒューマンエラーのリスクも無視できません。持続可能な運用体制を構築するためには、自動化や外部サービスの活用など、負荷を軽減する工夫が必要です。

最新脅威への継続的対応

サイバー攻撃の手法は日々進化しており、新たな脆弱性も次々と発見されています。セキュリティ運用では、こうした最新の脅威情報を継続的に収集し、自社環境への影響を評価し、必要な対策を実施する必要があります。この一連のプロセスは専門知識と多大な時間を必要とします。
また、ゼロトラストのような新しいセキュリティモデルへの移行も課題となります。既存の境界型防御からの移行には、ネットワーク構成の大幅な見直しやマイクロセグメンテーションの実装など、技術的な複雑性が伴います。こうした変革を進めながら、日常の運用も継続する必要があり、担当者の負担は増大します。

課題の種類 主な問題 企業への影響
人材不足 専門知識を持つ人材の確保困難、育成コスト 運用品質の低下、対応遅延
体制維持 24時間監視の人員確保、シフト管理の負担 人件費増加、担当者の疲弊
技術追従 最新脅威への対応、新技術の導入 対策の遅れ、複雑性の増大

セキュリティ運用の実装

セキュリティ運用を実際に実装する際には、技術的な複雑さと運用の持続可能性の両立が課題となります。特に複数のセキュリティツールを統合管理し、効率的に運用するためには、高度な専門性と継続的な負荷軽減の取り組みが必要です。ここでは、実装における具体的な課題と対応方法を解説します。

複数ツールの統合管理

現代の企業では、ファイアウォール、IDS/IPS、アンチウイルス、CASB、端末管理など、複数のセキュリティツールを運用しています。これらのツールはそれぞれ異なるベンダーの製品であることが多く、管理画面やログ形式も統一されていません。担当者は各ツールを個別に監視し、相関分析を手動で行う必要があり、大きな負担となります。
SIEMを導入すればログの統合管理が可能になりますが、導入と運用には高度な専門知識が必要です。また、SOARによる自動化を実現するには、各ツールとの連携設定や対応フローの設計が必要となり、実装のハードルは高くなります。こうした統合管理の難しさが、セキュリティ運用の効率化を阻む要因となっています。

ログ分析の高度な専門性

効果的なセキュリティ運用には、大量のログデータから異常を検知する分析能力が不可欠です。しかし、正常な通信と異常な通信を判別するには、ネットワークやアプリケーションの深い理解が必要です。誤検知を減らしながら真の脅威を見逃さないバランス感覚は、経験を積まなければ身につきません。
また、アタックサーフェスの拡大により、監視すべき範囲も広がっています。クラウド環境やリモートアクセス、IoTデバイスなど、従来の境界防御では守りきれない領域が増えています。こうした多様な環境のログを統合的に分析し、権限最小化の原則に基づいた適切なアクセス制御を実施するには、高度な専門性が求められます。
こうした高度な専門性が必要な運用業務に対しては、マネージドセキュリティサービスの活用も選択肢となります。専門的なエンジニアの知見とAIを組み合わせたサービスを活用することで、自社での負担を軽減しながら高品質な運用を実現できます。

セキュリティ運用の自動化

運用負荷を軽減するためには、定型的な作業を自動化することが有効です。パッチ適用、脆弱性スキャン、定期レポートの生成などは自動化の対象となります。SOARを活用すれば、インシデント発生時の初動対応も自動化できます。ただし、自動化を進めるには、対応手順の標準化と文書化が前提となります。
また、動的検証の仕組みを導入することで、継続的なセキュリティ検証が可能になります。ゼロトラストの考え方では、すべてのアクセスを疑い、常に検証することが原則です。

効果的なセキュリティ運用

セキュリティ運用を効果的に実現するためには、自社の状況に応じた現実的なアプローチを選択することが重要です。完璧な体制を最初から構築しようとするのではなく、段階的に実装し、継続的に改善していく姿勢が求められます。ここでは、持続可能なセキュリティ運用を実現するための方法を解説します。

内製化の判断基準

セキュリティ運用を内製化するか外部サービスを活用するかは、企業規模や専門人材の有無、予算などを総合的に判断する必要があります。大企業では、専任のSOCやCSIRTを設置し、高度な運用体制を構築するケースがあります。一方、中堅企業や中小企業では、コストと人材の制約から、すべてを内製化することは現実的ではありません。
内製化を検討する際には、以下の要素を評価することが重要です。まず、専門知識を持つ人材を確保できるか、育成する余裕があるか、そして24時間体制を維持できる人員を配置できるかを確認します。また、セキュリティツールの導入・運用コストと、人件費を含めた総コストを比較することも必要です。

企業規模 推奨される体制 主な選択肢
大企業 内製SOC・CSIRT設置 自社運用、一部外部サービス併用
中堅企業 ハイブリッド体制 基本運用は内製、高度な監視は外部委託
中小企業 外部サービス活用 マネージドセキュリティサービス中心

マネージドサービス活用

マネージドセキュリティサービスは、専門事業者がセキュリティ運用を代行するサービスです。24時間監視、ログ分析、インシデント対応などを専門エンジニアが実施するため、自社で人材を確保する負担を軽減できます。特に中小企業にとっては、現実的な選択肢となります。
サービスを選定する際には、対応範囲と品質を確認することが重要です。クラウド環境の監視に対応しているか、インシデント発生時の対応手順は明確か、定期的なレポートは提供されるかなどを評価します。また、自社の既存システムとの連携や将来的な拡張性も考慮する必要があります。
こうしたサービス活用により、専門的な運用業務の負荷を軽減しながら、高品質なセキュリティ体制を維持できます。自社では戦略的な判断やポリシー策定に注力し、日常的な監視や対応は専門事業者に委託するという役割分担が効果的です。

セキュリティ運用の最適化

効果的なセキュリティ運用は、一度構築して終わりではありません。継続的な改善により、セキュリティレベルを向上させることが重要です。定期的に運用状況を評価し、課題を洗い出し、対策を実施するPDCAサイクルを回す必要があります。インシデント対応の訓練や、セキュリティ文化の醸成も欠かせません。
また、サイバーレジリエンスの観点から、インシデント発生を前提とした対応力の強化も重要です。完全に攻撃を防ぐことは困難であるため、被害を最小限に抑え、迅速に復旧できる体制を整えます。バックアップの整備や復旧手順の文書化、定期的な訓練などが有効です。
さらに、IT部門とOT部門が連携し、組織横断的なセキュリティ体制を構築することも効果的です。両部門の認識のギャップを埋め、統一的なポリシーのもとで運用することで、企業全体のセキュリティレベルを向上させることができます。段階的に実装を進め、効果を検証しながら次のステップに進むアプローチが現実的です。

まとめ

セキュリティ運用における理想と現実のギャップは、多くの企業が直面する課題の一つです。完璧な体制を最初から構築しようとするのではなく、現実的な制約を認識し、段階的に実装していくことが重要となります。
限られた予算や人材の中でも、自社の状況に応じた運用体制を選択し、継続的に改善していくことで、効果的なセキュリティレベルの向上が可能です。内製化とマネージドサービスの活用を適切に組み合わせることで、持続可能な運用を実現できます。
導入の麻痺から脱却し、まずは実現可能な範囲から着実に進めることで、企業全体のセキュリティ文化を醸成し、サイバーレジリエンスを高めることができます。自社に最適なアプローチを見極め、実践していくことが求められています。

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