富士ソフト株式会社

導入事例

医療法人 三慧会 様

臨床データの分析に医療法人が選んだ分析基盤
〜Snowflakeの導入で「誰もがデータを使って分析できる環境」を実現

左)理事長・HORACグランフロント大阪クリニック院長 森本様
右)診療放射線技師(研究部門) 松本様

不妊治療・体外受精についての統合医療に取り組む医療法人 三慧会。年間12万人という患者に対し、職員数が300人、そのうち医師が30人という規模で、診療だけでなく学会参加や論文発表なども積極的に行い最先端技術の開発にも取り組んでいます。
電子カルテや検査システム、体外受精管理システムなどに登録された臨床データから、臨床成績を確認して研究に活かせるよう、Snowflakeを導入しました。医師だけでなく看護師など、誰もがデータを使って分析できる環境をどのように実現したのかを伺いました。

Q. まずは医療法人三慧会について教えてください。

森本理事長(以下、森本様):

我々のモットーは「苦しんでいる不妊患者さんを1人でも多く救う」「新しい生命を作っていく」というもので、そのために最先端技術を応用しています。生殖医学の分野は日進月歩で、例えば成熟卵子へのミトコンドリア移植療法、0.5ミリの卵管鏡を内蔵したバルーンカテーテルで卵管を広げていくFT(卵管鏡下卵管形成術)なども実施しています。

こういった先端技術を開発しながら、多くの医師が学会発表や論文の執筆に取り組んでおり、新技術を学びたい医師が全国から訪れる日本のリーディングチームになっています。また我々は、不妊患者さんにとっての「最終病院」という役目も果たしています。

鍼灸治療やマッサージ、運動療法、栄養療法など全人的なアプローチを取り入れた「統合医療部門」もあり、多くのプロフェッショナルが患者さんの精神的、身体的な状況を改善していくことも高妊娠率につながっています。

Q. Snowflakeを導入した背景について教えてください。

森本様:

患者さんは様々な疾患で治療を受けるため、「統合医療は分析が難しい」「エビデンスが作りにくい」と言われています。例えば、先端技術で顕微鏡を使うような技術よりも、運動療法の方が役に立つこともあります。これを実証するためには、データの積み重ねが非常に重要です。

医療法人としては、年間12万人という規模の患者さんが来られるため、そのデータは膨大です。これまではデータの集積や処理は、パソコン操作で一つ一つ対応していましたが、やはり限界があります。もっと多様な解析ができると、新しい生殖医学の道が開くのではないか、というもくろみもあり、今回のシステムを導入しました。

松本放射線技師(以下、松本様):

私は放射線技師なので、本業の仕事をしながら、データ分析に取り組んでいました。これまでも電子カルテや検査システム、体外受精管理システムが導入されており、臨床データを抽出できていましたが、特定の患者群の成績を抽出するには複雑な計算が必要で、ネックになっていました。

さらに、生殖医療における成績は、妊娠だけでなく体外受精で採取した卵子の数や成熟や受精・発生、流産や生産、周産期の情報、産まれた赤ちゃんの情報など多岐にわたっています。扱うデータの数も膨大で、Excelなどの一般的なアプリケーションでは扱いづらくなっていました。

Q. Snowflakeを導入してから分析するまでに苦労したことはありますか?

松本様:

同じ法人であっても施設が違うと、カルテの入力時の文言やルールが異なるため、例えば月経周期の情報を抽出するときも「ある施設ではこの文言から」「他の施設では別の文言から」といった対応が必要になりました。 臨床データを抽出できる電子カルテも導入されていますが、これはデータベースではないため情報の入力に多様性があり、そこをどのように対応するかが大変でした。

そこで、入力するときに「こういう形式に統一しよう」というルールを設けました。ルール作りが大変ですが、今後も統一が進めば、正確性が増していくと考えています。

森本様:

ドクターはカルテの書き方に癖がありますが、それを統一して拾ってくる努力は大変だったと思います。少し前までは、ある人はドイツ語を使っている、ある人は英語を使っている、ある人は日本語を使っている……といったことが、大学病院ではよくありました。

医師は日本中の大学から来るので、受けてきた教育が違うことが背景にあります。そこを統一する苦労がありました。

Q. Snowflakeを導入して実際に役立ったことはありますか?

森本様:

驚いたのは「ミトコンウォーク」という特殊なウォーキング法の有用性が検証できたことです。これは30分でできるウォーキングで、コツは活性酸素を制御することです。犬の散歩や通勤といったものではなく、デザインされたウォーキングをすることで、明らかに胚盤胞率が高くなるというデータが得られました。ウォーキングからそのようなデータが出てきたことが今までになく、我々も驚きましたし嬉しかったです。

このようなデータがあると、自信を持って患者さんに勧められますし、取り組む患者さんも張り合いが出ます。データを見せられるとやる気になり、それを患者さんにフィードバックできるという循環を実感しています。

データウェアハウスを通して得た分析結果が、世界でも発表されたことがないようなデータとして表れ、それが即、日常診療に活かされているのは大きな革命ではないかと思います。

Q. 分析するときの効果として感じていることを教えてください。

松本様:

私自身も臨床研究の論文などで使うなかでSnowflakeの効果を感じていることとして、これまで数日かかっていた計算が数時間でできるようになったことがあげられます。

自分が調べてみたい、興味があるなと思っていても、今まではハードルが非常に高かったものです。臨床成績を出すのに、複雑な計算をしなければならなかったのが、Snowflakeによって短縮できることは、調べるハードルが大きく下がりました。

今後の自分の研究につながっていくか、その後の論文になっていくかの出発点ですので、調べることのハードルを下げることは、研究において非常に大事だと思います。

Q. Snowflakeの取り組みでハードルが下がると、分析がよりスピーディーになるのでしょうか?

森本様:

臨床データを収集することはエネルギーが必要であり、医師はそれだけでヘトヘトになっています。そのあとに分析をして論文化することは、皆ができることではありません。Snowflakeの導入により、医師でなくても看護師でもデータを容易に収集できる環境が整いました。

看護師の研究は一般的にはアンケート調査が多いですが、それ以外の情報も収集して発表するように指導していました。看護師をはじめとしたパラメディカルの人も、データを蓄積することで、どういうバイオ技術が赤ちゃんを産むのかを研究できるようになります。これは法人としても意義が大きいと思います。

現在は我々の法人だけですが、他の施設とも交流できるようになれば、より多くのビッグデータが蓄積される、それが医学の進歩につながってくる可能性もあります。私は今も世界体外受精会議のために働いていますが、国内だけではなくて、海外にもアイデアを広めていけたらと思っています。

Q. 富士ソフトからSnowflakeを導入することに決めた理由を教えてください。

松本様:

以前、凍結胚の更新料をオンラインで決済できるシステムを導入したときに、信頼性の高いシステムを導入してくださったことがあります。導入後のトラブルにも速やかに対応いただいたこともあって、今回のデータウェアハウスの構築についても相談しました。

当然、双方が持つ背景知識に差がありますが、お互いに相手が理解できる用語で説明し、ストレスなくやりとりしました。略語が多く含まれる専門用語もわかりやすく説明していただいて、丁寧に対応していただいたと感じています。

Q. 他の医療法人などがSnowflakeを導入する際は、どういう準備をしておけば良いと思いますか?

松本様:

臨床データを取得すること自体はそれほど難しいことではありません。ただし、データがどのように表現されているか、という多様性が非常に大きいので、この部分を統一しておくと、臨床成績につなげるところで楽になると思います。

森本様:

事前にはデータ分析ツールについて知識がありませんでしたが、貴重な人材がいたので実現できました。ただし、データが大量にあるのに散逸していくことについての危機感がありました。データを取りまとめるのは気が遠くなりますが、データが日々生まれるなかで、データがバラバラになり失われていくのはもったいない、というトップの強い思いも必要でしょう。

Q. 近い未来で実現したいことはありますか?

森本様:

まずは、職員のかなりの数がSnowflakeを使うことです。使うまではどういうものかわかりませんし、食わず嫌いの人がいますが、多くの人が日常的に使うことが大事です。もちろんすごい研究に取り組んでいるアクティブな人もいますが、そうでない一般的な看護師などが手軽に触れて、自分の普段の臨床的な疑問をその場で答えが出るようになることを目指しています。

複数の治療法のどれが良かったのかは、データを分析することで確認できるので、そういうことをみんなが癖のようにやってもらえばと思っています。そして蓄積された3施設のビッグデータを生成AIで解析して、当院で治療を受けられる患者さんに最適な診療方針や治療計画を立案できるシステムにしたいとも思っています。おそらく10年も経たないうちに、今の生殖医療が変革を迎え、幹細胞から卵子・精子の作製が始まると思います。だからこそ、こういったデータが蓄積し、医学が進歩していけば、夢の治療法も出現してくるだろうし、それに対応できるような基盤になると思います。

Q. 富士ソフトに期待することは?

森本様:

日本のみならず人類の幸せを追求する一つの助走段階というか、ホップステップのホップくらいですので、一緒に走っていけたらいいなと思います。日本の特殊出生率が1.4、隣の韓国が0.7という、どんどん子どもが減っていく時代に子どもの生命を生み出していくことは意義があり、日本だけでなく世界でも最も重要なことです。本当に子どもが欲しい人に作ってあげること、不妊症の方、そこにはニーズがあります。

松本様:

我々の方でできる面はカバーできますが、システムの方でできることを協力していただけると、どんどん良くなっていくと思います。提案をしていただけたら、AIを使うということも含めて、気概を持っていただけたら嬉しいです。

本日はどうもありがとうございました。