企業のデジタル変革が加速する中、Salesforce AIの導入を検討する企業が増えています。しかし、SalesforceのAI機能には「Agentforce」と「Einstein」という2つの主要なソリューションがあり、それぞれの特徴や用途の違いが分からず、どちらを選ぶべきか判断に迷う方も多いのではないでしょうか。
Agentforceは2024年に発表された最新のAIエージェント機能で、自動化による業務効率化を重視しています。一方、Einsteinは予測分析や洞察の提供に特化した従来のAI機能です。どちらもCRM自動化を支援しますが、アプローチや得意分野が大きく異なります。
本記事では、Salesforce AIの2つの選択肢であるAgentforceとEinsteinの違いを詳しく比較し、それぞれの特徴や導入メリット、最適な選択方法について解説します。
Salesforce AIとは?機能と進化の全体像
Salesforce AIは、顧客関係管理(CRM)プラットフォーム上で動作する人工知能技術です。企業の営業、マーケティング、カスタマーサービスなど、さまざまな業務領域でAIの力を活用し、データドリブンな意思決定と業務効率化を実現します。
現在、SalesforceのAI機能は大きく分けて2つの方向性で進化しています。一つは従来からの「Einstein AI」で、もう一つは最新の「Agentforce」です。
Salesforce AIの進化の背景
SalesforceのAI技術は、2016年にEinsteinが導入されて以来、継続的に発展してきました。
近年の生成AIブームと企業のデジタルワークフォース需要の高まりを受け、2024年にAgentforceが登場しました。これにより、SalesforceのAI戦略は分析中心から実行支援へと大きくシフトしています。
デジタルワークフォースとしてのSalesforce AIの役割
Salesforce AIは単なるツールではなく、デジタルワークフォースプラットフォームとしての役割を担っています。人間の業務パートナーとして機能し、ルーティンワークの自動化から複雑な意思決定支援まで幅広くカバーします。
このプラットフォームアプローチにより、営業担当者はより戦略的な業務に集中でき、カスタマーサービス担当者は複雑な問題解決により多くの時間を割くことができるようになります。
Agentforceの特徴と機能
Agentforceは、Salesforceが2024年に発表した最新のAIエージェント機能です。従来のルールベースな自動化とは異なり、自然言語処理と機械学習を組み合わせて、より柔軟で知的な業務サポートを提供します。
この技術は「Agentic AI」と呼ばれる概念に基づいており、単純なタスク実行だけでなく、状況に応じた判断や学習能力を持つ点が特徴です。人間のエージェントのように、顧客とのやり取りから学習し、より良いサポートを提供できるよう継続的に改善されます。
Agentforce for Marketingの主要機能
Agentforce for Marketingは、マーケティング活動の自動化と最適化に特化したAIエージェントです。キャンペーンの企画から実行、効果測定まで、マーケティングのライフサイクル全体をサポートします。
このエージェントは、顧客データを分析してパーソナライズされたマーケティングメッセージを自動生成し、最適なタイミングで配信することができます。また、分析も自動的に行い、継続的なキャンペーン改善を支援します。
さらに、SalesforceのリードスコアリングAI機能と連携することで、見込み客の質を自動評価し、営業チームに優先度の高いリードを効率的に引き継ぐことも可能です。
営業・カスタマーサービス領域でのAgentforce活用
Agentforceは、営業プロセスの各段階で営業担当者をサポートします。見込み客との初期接触から商談クローズまで、データに基づいた提案や次のアクションを自動的に推奨します。
Salesforceによるカスタマーサービス自動化、顧客からの問い合わせに対する初回回答の品質向上や、複雑な問題の適切なエスカレーションを支援します。従来のAIチャットボットよりも高度な理解力と対応能力を持っています。
自然言語処理による高度なコミュニケーション
Agentforceの大きな特徴は、高度な自然言語処理能力にあります。顧客からの問い合わせを文脈まで理解し、適切な回答を生成できます。これにより、人間のオペレーターが対応するような自然な会話が可能になります。
また、多言語対応も充実しており、グローバル企業での活用も見込まれています。日本語での問い合わせにも高精度で対応でき、日本市場での導入メリットは大きいと考えられます。
Einsteinの特徴と機能
Einstein AIは、2016年から提供されているSalesforceの代表的なAI機能です。予測分析と自動インサイト生成に特化しており、企業のデータから価値ある洞察を抽出することに長けています。
Einsteinの強みは、長年の運用実績とデータ蓄積にあります。多くの企業での導入事例を通じて機械学習モデルが洗練されており、高精度な予測と分析結果を提供できます。
Einstein Chatbotsによるカスタマーサービス自動化
Einstein Chatbotsは、カスタマーサービス領域でのAI活用の代表例です。よくある質問への自動回答や、適切な担当者への振り分けなど、基本的なカスタマーサポート業務を効率化します。
Einstein Chatbotsは事前に設定されたルールとAIの学習機能を組み合わせることで、時間の経過とともに回答精度が向上していきます。また、人間のオペレーターとの連携もスムーズで、複雑な問題が発生した際の引き継ぎも効率的に行えます。
営業支援におけるEinsteinの予測分析機能
Einsteinは、過去の取引データやカスタマー行動を分析し、将来の売上予測や商談成功確率を算出します。これにより営業マネージャーは、より精度の高い売上見込みを立てることができます。
また、個々の営業担当者に対しては、次に取るべきアクションの提案や、優先すべき見込み客の特定なども行います。データドリブンな営業活動を支援し、属人的な営業から脱却することが可能です。
Marketing Cloud AIでのパーソナライゼーション
Marketing Cloud AI機能では、顧客一人ひとりの行動パターンや嗜好を分析し、最適なマーケティングコンテンツとタイミングを提案します。これにより、大規模なパーソナライゼーションが実現できます。
マーケティング活動の幅広い領域でAIの恩恵を受けることができます。
AgentforceとEinsteinのAI比較
AgentforceとEinsteinは、どちらもSalesforce AIの重要な構成要素ですが、アプローチと得意分野が大きく異なります。両者を適切に比較することで、自社のニーズに最適なソリューションを選択できます。
AgentforceとEinsteinの技術的アプローチの違い
Einsteinは従来の機械学習と統計的手法を基盤としており、大量のデータから価値ある情報を抽出することに長けています。一方、Agentforceは生成AIと自然言語処理を活用し、人間のような思考プロセスで業務を実行します。
Einsteinがデータサイエンティストのような役割を果たすとすれば、Agentforceは実際に業務を遂行するアシスタントの役割を担います。この違いにより、それぞれが解決できる課題の性質も変わってきます。
導入・運用コストの比較
コスト面での比較も重要な検討要素です。Einsteinは多くのSalesforce製品に標準搭載されており、Salesforce Unlimited版やEinsteinなど上位エディションではより多くの機能が利用可能です。
一方、Agentforceは比較的新しい技術であり、専用のライセンスが必要です。ただし、人的リソースの削減効果を考慮すると、中長期的な投資対効果は高いと考えられます。
データセキュリティとコンプライアンス
データセキュリティ Salesforce AIの観点では、両者ともにSalesforceのセキュリティ基盤を共有しています。しかし、Agentforceは外部とのやり取りが多いため、より厳密なアクセス制御が必要になる場合があります。
コンプライアンス要件が厳しい業界では、Einsteinの方が導入しやすいケースもあります。一方、カスタマーサービスの効率化を重視する場合は、Agentforceのメリットが大きくなります。
AI運用に求められる体制と人材スキル
Einsteinの効果的な活用には、データ分析に関する基礎知識が必要です。予測結果の解釈や、ビジネス戦略への活用方法を理解できる人材が求められます。
Agentforceの場合は、AIエージェントの設定やトレーニングに関する知識が重要になります。また、顧客とのやり取りを監視し、必要に応じて人間が介入する運用体制の構築も必要です。
導入時の選択基準と活用方法
AgentforceとEinsteinの選択は、企業の業務課題、組織体制、IT戦略によって決まります。適切な選択のためには、現状分析と将来的な展望の両方を考慮することが重要です。
多くの企業では、両方のソリューションを段階的に導入し、相互補完的に活用することで最大の効果を得ています。まずは緊急度の高い課題に対応するソリューションから始め、組織のAI活用成熟度に応じて機能を拡張していく方法が有効です。
業務課題別の適用方針
営業効率化が主目的の場合、Einsteinの予測分析機能が有効です。商談の成功確率予測や、見込み客の優先順位付けなど、戦略的な営業活動を支援します。一方、顧客対応の自動化を重視する場合は、Agentforceの対話機能が適しています。
マーケティング領域では、Einsteinでキャンペーン効果を分析し、その結果をもとにAgentforceで自動的にフォローアップを実行するという連携パターンが効果的です。
組織規模と導入戦略
大企業では、複数部門での並行導入が可能です。営業部門でEinstein、カスタマーサービス部門でAgentforceという形で、部門特性に応じた選択ができます。
中小企業の場合は、リソースの制約を考慮し、最も効果が期待できる領域から段階的に導入することが推奨されます。初期投資を抑えながら、AIの効果を実感できる導入方法を選択することが重要です。
導入成功企業に学ぶAI活用のベストプラクティス
AI導入に成功している企業の多くは、明確な目標設定と継続的な効果測定を行っています。単純な業務効率化だけでなく、顧客満足度の向上や新しいビジネス機会の創出まで視野に入れた活用を実現しています。
また、AI導入に際して、従業員のスキル向上と意識変革も並行して進めています。AIを脅威ではなく、業務パートナーとして捉える組織文化の醸成が、長期的な成功につながっています。
導入後の効果測定と改善
AI導入の成功には、継続的な効果測定が欠かせません。定量的な指標(効率化率、コスト削減額など)と定性的な指標(従業員満足度、顧客満足度など)の両方を追跡することが重要です。
また、AI学習データの品質向上も継続的に行う必要があります。データクレンジングやモデル再訓練を定期的に実施し、AIの性能を維持・向上させることで、長期的な投資対効果を確保できます。
まとめ
Salesforce AIのAgentforceとEinsteinは、それぞれ異なる特徴と強みを持つソリューションです。Einsteinは予測分析と洞察生成に優れ、データドリブンな意思決定を支援します。一方、Agentforceは対話型AIとして業務自動化と顧客対応の効率化を実現します。
両者の選択は、企業の業務課題と戦略目標によって決まります。売上予測や戦略的分析を重視する場合はEinstein、顧客対応の自動化や業務効率化を優先する場合はAgentforceが適しています。多くの企業では、段階的に両方を導入し、相互補完的に活用することで最大の効果を得ています。
成功する導入のためには、明確な目標設定、適切な運用体制の構築、継続的な効果測定が重要です。AIを単なるツールではなく、ビジネスパートナーとして位置づけ、組織全体でAI活用文化を醸成することで、デジタル変革の加速と競争優位性の確立が実現できます。
富士ソフトでは2017年よりCRM(Salesforce)を自社導入し、顧客データを活用してお客様との関係性の強化による満足度と収益の向上を実現してきたナレッジを踏まえて、SalesforceだけでなくAgentforceやEinsteinの導入や利活用の提案を行っています。
Salesforce認定コンサルタント60名を含む約200名のSalesforce専任の技術者がAs-is To-beの整理(要件整理)から導入後のアフターサポートまでワンストップパートナーとしてお客様のニーズに合わせたご支援をいたします。