導入事例

八千代エンジニヤリング株式会社

Geminiで官公庁向け「業務計画書」作成業務を効率化

建設コンサルタント大手の八千代エンジニヤリング株式会社は、官公庁への提出が義務づけられている「業務計画書」の作成業務に、Google CloudとGeminiを組み合わせた専用ツールを導入した。開発パートナーは富士ソフト株式会社。散在していた社内情報の収集や、発注者ごとに書式が異なる仕様文書からの転記作業を自動化し、作業時間を1時間程度短縮した。リリース直後から社内の反響は大きく、全社的な生成AI活用の機運をさらに高めるきっかけとなっている。

今回インタビューしたプロジェクトメンバー

今回インタビューしたプロジェクトメンバー

左:八千代エンジニヤリング株式会社 技術管理本部 デジタル基盤整備部 システム企画課 リーダー 松本拓也氏
中央:八千代エンジニヤリング株式会社 技術管理本部 デジタル基盤整備部 システム企画課 シニアアソシエイト 大沢明瑠氏
右:富士ソフト株式会社 ソリューションビジネスユニット ソリューション事業本部 情報ソリューション事業部 第3DXソリューション部 第1技術グループ 高橋遼香

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導入サマリー

業種 建設コンサルタント(社会インフラの調査・計画・設計・維持管理)
課題 官公庁業務で提出が必要な「業務計画書」作成に必要な社員情報・資格情報などの情報取得、業務地域における最寄り警察署、消防署、病院などの緊急連絡先の調査や、発注者ごとに書式が異なる「特記仕様書」からの業務内容の転記に手間を要していた。
解決策 Cloud Run・Vertex AI(Gemini)・BigQuery・Cloud SQL・Cloud Storageを組み合わせた「業務計画書作成ツール」を富士ソフトと共同開発。情報抽出から緊急連絡体制の検索、Wordファイルの自動出力までを一気通貫で実現。
効果 作業全体にかかる時間を約1時間以上短縮。社内全体で年間約1,500件にのぼる業務計画書作成業務の省力化に貢献し、リリース直後から社内の期待値が高まっている。
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八千代エンジニヤリング株式会社について

八千代エンジニヤリング株式会社は、道路や橋梁、河川、ダムといった社会インフラの整備に貢献する建設コンサルタント会社である。2024年にスタートした第3次中期経営計画では、「成長の加速」をコンセプトに掲げ、「人材の成長」「事業の成長」「仕事の進め方の改善」「企業グループの成長」の4つの観点で、それぞれに対応した重点施策に取り組んでいる。

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背景:限られた時間で高い品質が求められる「業務計画書」作成

同社の受注案件は8〜9割が官公庁からのものであり、契約後14日以内に「業務計画書」という書類の提出が求められる。限られた期間で品質の高い文書を作成する必要がある中、作業には3つのボトルネックがあった。

  • 担当する社員の連絡先や保有資格などの情報が複数の社内システムに分散しており、しかも各システムは、一度に一人分の情報しか検索できない仕様のため、必要な情報を集めるだけで30分以上かかることもあった。
  • 業務の実施場所ごとに最寄りの病院・消防署・警察署を調べて緊急連絡体制の一覧を作る作業があり、1件あたり20分程度を要していた。
  • 発注者である官公庁から提供される「特記仕様書」と呼ばれる仕様文書は発注者ごとに書式がまったく異なり、その中から業務内容に該当する記載を探し出し、一字一句違わずに転記する作業にも、多くの時間を要していた。

松本氏は、「年間に作成する業務計画書は全社で約1,500件にのぼる。こうした調べもの作業が積み重なると膨大な時間になっていたことを踏まえると、システム開発による効果は小さくない。」と語る。

入力(特記仕様書PDF、社内DBの連絡先・資格情報)から「業務計画書作成ツール」を経て、業務計画書を出力する流れ
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Google CloudとGeminiを選んだ理由

同社はもとよりGoogle Workspaceを社内基盤として採用しており、社内向け資料の作成にはスプレッドシートなどGoogleのサービスを利用している(官公庁への納品物のみExcel・Wordを使用)。インフラについてもGoogle Cloudを採用しており、既存基盤との親和性の高さやVertex AIといった充実したAIシステム構築環境が導入の土台にあった。

大沢氏は「AIモデルの選定にあたっては当初GPT系のLLMモデルも候補にあったが、Google Cloudとの親和性や、業務内で実施した比較検証の結果、Geminiのほうが安定した出力が得られたことが決め手となり採用に至った」と語る。

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パートナー選定:富士ソフトの伴走姿勢が決め手に

開発パートナーは3社から相見積もりを取得し、最終的に富士ソフト株式会社に依頼した。

松本氏は、「決め手はコストだけでなく、提案段階からデモ画面を用意し『一緒にやっていきましょう』という姿勢を見せてくれた点にあった。ほかの2社が知識を教える立場として臨んでいたのに対し、富士ソフトは伴走型の支援を打ち出しており、特に担当エンジニアの高橋さんが保有する豊富なGoogle Cloud認定資格も、社内の意思決定(稟議)を後押しする材料になった」と語る。

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システム概要:「業務計画書作成ツール」の仕組み

開発された「業務計画書作成ツール」は、Google Cloud上に構築されたWebアプリケーションである。フロントエンドはSvelteKit、バックエンドはFastAPIで構築し、いずれもコンテナ化してCloud Run上で稼働させている。認証にはIdentity-Aware Proxy(IAP)を利用し、専用のログイン画面を作りこまずにゼロトラストなアクセス制御を実現。ロードバランサーにはCloud Armorを適用し、セキュリティ面も担保した構成となっている。

主なGoogle Cloudサービス 役割
Cloud Run フロントエンド(SvelteKit)とバックエンド(FastAPI)、各種バッチ処理をコンテナ化して稼働
Vertex AI(Gemini) 特記仕様書・技術提案書からの情報抽出、業務計画書に記載する文章の自動生成
BigQuery 全社員の氏名・所属・資格・連絡先などのマスタデータを管理
Cloud SQL(MySQL) 業務計画書データやステータス管理など、アプリのメインデータベース
Cloud Storage アップロードされた参考資料や、生成された業務計画書(Wordファイル)を保管
Identity-Aware Proxy/Cloud Armor 社内ユーザーに限定したゼロトラストアクセス制御とWAFによる保護
Google Analytics 4 リリース後の利用状況(ダウンロード数など)を計測・可視化

AIによる文書解析・生成にはVertex AI経由でGeminiを利用する。ユーザーが特記仕様書などをアップロードして作成開始すると、まずドキュメント解析ツールで文書を読み取り、続いてGeminiが特記仕様書の中から業務内容に該当する箇所を探し出してテキストを抽出する。開発を担当したSEの高橋は「発注者ごとに書式がばらばらな文書からピンポイントで該当箇所を見つけ出す処理は従来のスクリプト処理では対応できず、生成AIならではの強みが生きている部分です。技術提案書に記載した提案内容についても、業務計画書に転記すべき箇所を同様にGeminiが抽出しています」と語る。

一方、緊急連絡体制に必要な最寄りの病院・消防署・警察署の検索は、あえてAIを使わずGoogle Maps APIとロジック制御で実装している。

松本氏は、「確実性を重視し、Google Maps APIを用いた検索で、上位3件の候補を提示し、最終判断は人間が行う設計とした。」と語る。

生成された内容はすべて、抽出元の該当箇所へのリンク付きで画面に表示され、担当者が内容を確認・修正しやすい仕組みになっている。AIの出力をそのまま信用するのではなく、必ず人の目を介在させる設計にした点は、正確性が強く求められる文書ならではの工夫だ。最終的な成果物は使い慣れたWord(.docx)形式で出力され、複雑な表組みを含む書式もそのまま再現される。

アーキテクチャ構成図

アーキテクチャ構成図

あえて汎用的なAIチャットではなく、専用アプリケーションとして開発した点も特徴だ。行政特有の用語を含み、かつ様々なフォーマットの特記仕様書から特定の情報を正確に抽出させるには、高度なプロンプト設計が必要となる。さらに、生成するWordファイルは複雑な表組み等を含むため、AIチャット形式では、意図した出力を生成することは困難である。プロンプトやWord文書作成の複雑な手続きをアプリとして組み込むことで、利用者のITリテラシーに差があっても、均質な結果を得られるようにした。

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開発の進め方:研究部門との連携とAIを活用したスピード開発

プロジェクトは2025年11月に企画が始動し、2026年3月にパートナーを選定。4、5月に要件定義、基本設計を実施。その後、実質的な開発は約2か月の短期間で進められた。開発は富士ソフトのメインSEである高橋他1名が実施した。同年7月末に開発を完了し、9月1日にリリースした。

高橋は「Geminiを活用したことで今までにはない速度で開発を行うことができ、さらにお客様からの修正事項なども迅速に対応することができた。Geminiを使っても分からないことがあった場合でも、上長に相談して疑問点を解消することで、よりスムーズに案件を進めることができた。」と語る。

また、開発を後押ししたのが、同社の技術創発研究所(AI・データサイエンス領域の要素技術を研究する社内組織)との連携だ。開発着手に先立ち、AI研究チームが特記仕様書からの文章抽出手法を検証し、生成AI出力結果に関する定量的な評価指標を作成した。その後、業務内でGemini 3.5 FlashとGPT 5.2の比較を行い、最高点はGPTが上回ったものの点数のばらつきが大きく、Geminiは常時7割前後の安定した精度で出力できることが確認できたため、Gemini 3.5 Flashの採用を決定した。「勘や印象ではなく数値で判断する」進め方は、開発チームが今回のプロジェクトで得た大きな学びの一つだという。

松本氏は「開発の進め方自体も、要件定義を固めてからまとめて実装するのではなく、社内イベントでのデモ披露に合わせて画面を早期に見せ、フィードバックを受けながら随所で作り直すアジャイル型のスタイルをとった。かつては仕様の根幹に関わる変更は避けたいところだが、生成AIを活用した開発では機能追加や修正のスピードが格段に上がっており、要件の大きな変更にも柔軟に対応できた」と語る。

全体スケジュール

今までの開発とは異なり、AIを利用したことで構築期間が大幅に短縮され検証期間が十分に取れている様子がわかる。

全体スケジュール
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リリース後の反響と効果

最も大きな効果は、情報収集にかかる時間の大幅な短縮だ。社員の連絡先・資格情報の収集、緊急連絡体制(病院・消防署・警察署)の検索、特記仕様書からの業務内容の抽出・転記などの作業時間が大幅に削減した。

項目 導入前 導入後
社員の連絡先・資格情報の収集

複数システムを個別に検索

(必要時間:30分以上)

ユーザーが選択した社員の情報をシステムが自動収集し一覧化
緊急連絡体制(病院・消防署・警察署)の検索

地図サイト目視による手作業

(必要時間:20分程度)

即時に候補上位3件を自動提示
特記仕様書からの業務内容の抽出・転記

文書全体を目視で確認し手作業で転記

(必要時間:30分程度)

Geminiが該当箇所を自動抽出、必要に応じて修正
トータル作業時間 約1時間20分

約10分

★1時間以上の削減

社内の反響も早かった。2026年9月1日のリリース初日から、約50名規模の利用者が試用し、初日から改善要望が寄せられるほどの反応があった。

大沢氏は「富士ソフトの高橋さんよりGoogle Analytics 4を導入して利用状況を可視化する提案があり、リリース後は生成資料のダウンロード数などの行動データを継続的に分析できることになったことで勘や推測ではなく確実な利用状況の把握ができるようになったことは大きい。社内の他のシステムにもGoogle Analytics 4の導入を進めていきたい。」と語る。

一方で、松本氏は「社内の期待値が想定以上に高まったことは、開発チームにとって新たな悩みの種にもなった。『プロトタイプだ』と伝えても、より高い精度を求める声が寄せられ、生成AIへの過度な期待をどう調整するかに苦労したという。裏を返せば、それだけ現場のニーズが強かったことの表れだ。」と語る。

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今後の展望

現状はまだ一部部署のフォーマットにしか対応できておらず、部署によって業務計画書の作り方に差があるため、今後は利用状況やフィードバックを収集しながら対応フォーマットを拡充していく方針だ。あわせて、生成AIの性能そのものは日々向上していく一方で、社内データが十分に整理されていなければAIの力を引き出せないという課題も見えてきたといい、AIを活用しやすいデータ環境の整備にも取り組んでいく考えを示した。

システムの利用状況を確認する松本氏(左)と高橋(右)

システムの利用状況を確認する松本氏(左)と高橋(右)

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まとめ

今回のプロジェクトは、同社にとって業務特化型の生成AIアプリケーションを外部パートナーとともに開発した実質的な第一弾となった。すでに社内向けの汎用LLMチャットツールは活用が進んでおり、全社員の約3分の1が月100回以上生成AIを利用するなど、社内のAIリテラシーは着実に高まっている。そうした土壌の上にGoogle CloudとGeminiを組み合わせた業務特化型のアプリケーションを構築したことで、これまで個人や部署単位の効率化にとどまっていたRPA施策とは異なる、全社規模で効果が見込める取り組みとなった。

今回インタビューしたプロジェクトメンバー