生成AIやAgentforceの活用が急速に広がる一方で、「チャットボット的な使い方はできているが、実際の営業判断や業務判断に組み込むところまでは進められていない」という悩みを抱える企業は少なくありません。各種調査でも、AIエージェントを含む生成AI PoC(Proof of Concept)のうち本格導入に至るのはごく一部にとどまるとされており、多くの企業が「PoCの次」で足踏みしているのが実情です。
本記事では、AIエージェントがPoCから本番導入に進めない原因を整理したうえで、Salesforce・Agentforceを軸としたAI活用支援を行う富士ソフトの知見を基に、AIを「本当に使える判断材料」に変えるための設計の考え方を、具体的な手順とあわせて解説します。営業DXやAgentforceの利活用に課題を感じているご担当者様は、ぜひ参考にしてください。
Writer Profile
張谷 卓也
富士ソフト株式会社
ソリューションビジネスユニット
ソリューション事業本部 営業統括部
ソリューション営業部 第1営業グループ 主任
Salesforce認定アドミニストレーター、Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント、
Financial Services Cloud Accredited Professional、FY23 MuleSoft Go To Market Champion
2020年 富士ソフト入社。Salesforce社とのアライアンス活動を経て、現在はハードウェア、セキュリティー、ERPといった前職での営業経験を活かし、全社データ基盤としてのSalesforceの活用提案を行っている。

AIエージェントが「PoC止まり」になる実態と原因
生成AIやAIエージェントの導入検討を進める企業は年々増えていますが、実際に本番運用まで至るケースはまだ限られています。まずは、その実態と背景にある原因を整理します。
各種調査に見る「PoC止まり」の実態
MIT・Gartner・IDCなど各種調査によれば、AIエージェントを含む生成AI PoCのうち本格導入に至るのは5〜15%程度にとどまるとされています。チャットボットのような限定的なユースケースであれば構築できても、実業務の判断に耐えるレベルまでエージェントを設計できているケースは、ごく一部にとどまっているのが現状です。2027年までにAgentic AI案件の40%以上がキャンセルされるとの予測もあり、この傾向は今後さらに顕在化していくと考えられます。
本番導入を阻む3つの原因
AIエージェントが本番導入されない理由を整理すると、次のような流れが見えてきます。
成果が見えない → AIの得意領域を意識した活用ができていない → 単なる自動化で終わっている → ビジネスの成長にも、人の成長にもつながらない
この背景には、主に次の3つの前提条件の未整備があります。
| 原因 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 前提条件の未設計 | 判断に必要な前提条件がそもそも設計されていない |
| 判断基準の不明確さ | 入力データや判断基準が曖昧なまま運用されている |
| 責任分界の曖昧さ | 根拠の検証プロセスと責任の所在が明確になっていない |
つまり、前提条件が曖昧なままでは、AIがどれだけ高度な出力を返しても、それは「判断」として使えるものにはならないのです。富士ソフトでは、この課題の解消こそがAgentforce活用の出発点になると考えています。
判断に使えるAIをつくる3つの設計要素
AIの出力を実際の業務判断に使えるレベルまで引き上げるには、次の3つの設計要素を揃える必要があります。
コンテキスト設計
Data360のような仕組みで社内データを統合し、品質基準・権限管理・メタデータの粒度をそろえることで、AIが参照する「単一の真実」をつくります。ここが揃っていないと、同じ質問に対してもAIの回答がぶれてしまい、判断材料として信頼できません。
プロンプト設計
入出力例によって期待値をあらかじめ固定し、制約条件を先に宣言したうえで、根拠の提示や出力フォーマットを指定します。評価・テストとハルシネーション対策までをセットで設計することで、AIの提案がぶれずに再現できるようになります。
ガバナンス設計
前提・条件を明記し、根拠や出典へのリンクを付与、禁止事項をあらかじめ宣言したうえで、判断過程をログ・監査として残します。最終的な承認は必ず人が行い、そこから改善ループを回していく体制を整えます。
| 設計要素 | 目的 | 運用で効くポイント |
|---|---|---|
| コンテキスト設計 | 判断材料の全体像・品質をそろえる | データ定義・粒度の統一、品質ルールの自動化 |
| プロンプト設計 | 出力のブレを抑え、期待値を固定する | テンプレ化と例示、評価・回帰テスト |
| ガバナンス設計 | 責任の所在を明確にし、説明可能性を担保する | 権限・監査ログ、承認フローと改善サイクル |
この3つが揃って初めて、AIの出力は「なんとなく使えそうな情報」から「業務判断の材料」へと変わります。
AIに"決めさせない"意思決定設計の4原則
もう一つ、多くの企業が見落としがちなポイントがあります。それは、AIに判断させること自体をゴールにしてしまうと、かえって現場に定着しないという点です。
LLMはあくまで確率的な生成の仕組みであり、「最もそれらしい答え」を返すものであって、「正しい意思決定」を保証する仕組みではありません。加えて、意思決定の責任は本来AIに移転できるものではなく、現場に根づく暗黙知や社内ルール、顧客との関係性といった文脈も、AIが完全に理解することは困難です。
こうした前提に立ち、富士ソフトが提唱しているのが「Agentforce時代の意思決定設計」における次の4原則です。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 原則1|根拠のトレーサビリティ | 出所・前提・推論の道筋を追跡可能にし、説明可能性を担保する |
| 原則2|権限と責任の分離 | AIは収集・整理・選択肢提示までを担当し、最終判断と責任は人に残す |
| 原則3|不確実性の可視化 | 分かっている点・欠けている点を明示し、追加調査や保留判断の基準を持つ |
| 原則4|反証の標準装備 | リスクや代替策をあらかじめセットで提示させ、判断の再現性を高める |
この考え方を一言で表すなら、「AIは"決める"のではなく、"判断の質"を高める存在」ということです。AIに周辺情報(判断材料の出所、根拠とした理由、不足している情報)まで提示させる設計ができて初めて、情報収集から整理、提案までを自動化する土台が整い、そのうえで人が最終判断を下すという流れが実現します。これは業種を問わず、営業DXやAgentforce活用全般に共通して成立する考え方です。
意思決定設計を実務に落とし込むステップ
上記の設計要素・原則を実際の業務に落とし込む際は、次の3ステップで考えると整理しやすくなります。
1. 横断して情報収集:エージェントが複数業務・複数資料・複数ルールを横断して情報を集める
2. 判断材料を構造化:集めた情報を判断材料として構造化し、提示する
3. 意思決定を支援:人が最終判断をしやすい形にデータを整える
このプロセスを整えることで、AIは単なる自動化ツールから、「人が速く・迷わず・説明できる判断をするための基盤」へと役割を変えていきます。
まとめ
AIエージェントがPoCの先に進めない背景には、技術力の不足ではなく、「意思決定そのものをどう設計するか」という視点の欠如があります。コンテキスト設計・プロンプト設計・ガバナンス設計という3つの土台と、根拠のトレーサビリティ・権限と責任の分離・不確実性の可視化・反証の標準装備という4原則を押さえることで、AIの出力を「使える判断材料」へと変えていくことができます。
自社のAgentforce/AI活用が「PoC止まり」になっていないか、また意思決定設計を実務にどう落とし込むかについては、より実践的なチェックリストや物流業界における実践事例を交えた資料をご用意しています。次の一歩を検討されている方は、ぜひ資料を下記フォームよりご請求のうえご活用ください。
富士ソフトでは2017年よりCRM(Salesforce)を自社導入し、顧客データを活用してお客様との関係性の強化による満足度と収益の向上を実現してきたナレッジを踏まえて、SalesforceだけでなくAgentforceやEinsteinといった生成AIソリューションの導入や利活用の提案を行っています。 Salesforce認定コンサルタント60名を含む約200名のSalesforce専任の技術者がAs-is To-beの整理(要件整理)から導入後のアフターサポートまでワンストップパートナーとしてお客様のニーズに合わせたご支援をいたします。