導入事例(株式会社デンソー)
AIで熟練エンジニアの「暗黙知」を「形式知」へ変換。
ナレッジの消失に歯止めをかけるとともに、全社で利用できる知の基盤へ
先進的な自動車技術や、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーである株式会社デンソー (以下、デンソー )。同社の研究開発部では、熟練エンジニアのナレッジ継承に課題意識を持っていました。そこで同社は富士ソフトと協業し、AI/機械学習を活用した「ナレッジマネジメントシステム」の構築に取り組んでいます。
目次
株式会社デンソー
研究開発部 課長
田口 和也 氏
株式会社デンソー
研究開発部 担当係長
檜山 卓希 氏
導入の背景
熟練エンジニアのナレッジの消失に危機感を募らせて
デンソーは、先進的な自動車技術、システム·製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーです。現在は、自動車領域で培った技術や知見を活か し、農業領域での技術開発に取り組むなど、幅広い分野で時代を先駆ける技術開発を手掛けています。
同社は2030年の目指す姿やロードマップを示す「2030年長期方針」において、スローガン「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい。」を掲げ、より安全で環境にやさしいモビリティの未来の実現に取り組んでいます。そして、その成否を握るのは、高効率かつ高品質なものづくり、そしてグローバルなニーズに応え得る「開発力」です。
一方、同社は開発力の源泉とも言える熟練エンジニアのナレッジの消失に危機感を募らせています。
「どんなに優秀なエンジニアもいつかは転職や定年等を理由に退職されますが、それによって彼らのナレッジが失われることは会社にとって大きな損失です。どうすれば彼らのナレッジを次世代に継承できるのか。私たちはそんな課題意識を持っていました」こう話すのは、研究開発部 担当係長の檜山 卓希氏です。
同社ではエンジニアのナレッジ継承やリソース不足、属人化が課題となっています。研究開発部 課長の田口 和也氏は、35の国と地域で事業を展開するデンソーならではの課題もあると言います。
「当社は国内外で事業を展開しているため、私たちは外国籍のメンバーと一緒に働くこともあります。そうした中で実感していることは、海外は日本以上に人財の流動性が高いということ。日本の場合、エンジニアの多くは長期間にわたって働いてくれるため、その間にナレッジの継承に取り組むことができます。しかし海外では、ごく限られた時間の中でナレッジを継承するための施策を検討する必要があるのです」(田口氏)
会社選定のポイント
確かな技術力と熱量に裏打ちされた「提案力」が決め手に
こうした課題を解決するため、デンソーは熟練エンジニアの経験や勘といった“暗黙知”をデジタル化し、誰もがデータベースから抽出できるようにする「ナレッジマネジメントシステム」の開発を検討し始めました。
「システムの開発を進めるにあたり、私たちが注目したのはAI/機械学習です。当社の技術や情報を学習させたAIを活用すれば、熟練エンジニアの経験や勘など、言葉で説明することが難しい暗黙知を形式知へ変換し、蓄積できるのではないかと考えました。このシステムが実現すれば、誰でもデータベースから必要なナレッジを抽出できるようになるため、知の共有が容易になり、属人化からの脱却や生産性の向上、そしてナレッジ継承の加速につながると確信しています」(檜山氏)
同社はシステムの要件定義と並行して、開発パートナーの選定も実施。その結果、開発パートナーとして富士ソフトが選ばれた背景には、35年にわたる両社の歴史に裏打ちされた強固な信頼関係と、技術へのひたむきな想いがありました。
「かねてよりお取引をさせていただく中で、富士ソフトは当社が発想はあってもなかなか手を出せずにいる領域に対して、さまざまな角度から提案をしてくれました。それは幅広い分野で高い技術力を有しており、AIをはじめとする最新のテクノロジーを駆使した事業展開をなさっている富士ソフトだからできたことです。また、富士ソフトのエンジニアと接する中で確かな技術力と技術へのひたむきな想いが伝わり、富士ソフトが提案するAIの可能性を信じてみたい、と思うようになりました。AIに強いSIerは数あれど、そうした『提案力』は唯一無二である。その確信が決め手となり、富士ソフトに依頼しました」(田口氏)
開発概要
精度向上の鍵はナレッジの蓄積
デンソーが富士ソフトにAI/機械学習を活用したナレッジマネジメントシステムの開発を依頼したのは、2025年4月のこと。その後、両社はシステムのコンセプト設計や必要な機能の洗い出しを進めてきました。
「まずは10月をめどにプレビュー版のシステムを構築し終えることを目指して、システム開発を進めています。現在はシステムがどういった処理まで対応できるのか、システムの能力値を測る段階です。その中で見えてきた課題は、いかにエンジニアの暗黙知を形式知化するかということ。この課題は、現場のエンジニアにプレビュー版のシステムを使ってもらう中で検証していきます。そのためにも、まずはできるだけ多くのナレッジを蓄えられるよう、部署の垣根を越えて一人でも多くのエンジニアにシステムを使ってもらうための施策を検討していきます」(檜山氏)
今後の展望
人がAIのナレッジを高め、AIのナレッジが人の成長を促す
デンソーは今後数年かけてプレビュー版のナレッジマネジメントシステムを使ってシステムの精度を高めた後、正式版のシステムの運用を開始する計画です。
「国内外の拠点が直面しているナレッジの消失に歯止めをかけるためにも、このシステムをエンジニアにどう浸透させていくかを富士ソフトと議論していきたいと考えています。そしてAIのナレッジを高めつつ、それを扱う私たち自身も成長できるようなシステムにしていきたいです」(檜山氏)
ナレッジの継承は昨今、製造業の現場において大きな課題となっています。その点「AIを活用することで、熟練エンジニアの経験や勘といった暗黙知をデジタル化し、形式知へ変換する」という今回のプロジェクトは、富士ソフトにとって非常にチャレンジングな取り組みであり、また製造業が長年抱えてきた課題を解決し得るプロジェクトでもあります。そんなプロジェクトを営業、技術の領域から主導した富士ソフトの松田 和実と村井 清一郎は、次のように振り返ります。
「ナレッジマネジメントシステムではテキストでナレッジを蓄積しましたが、今後は動画や音声など、さまざまな形式でのナレッジの蓄積に挑戦してみたいです。また、今回のプロジェクトで得られた知見を生かし、デンソー様同様にナレッジ継承という壁に直面しているお客様の『知の蓄積』をご支援していきたいです」(松田)
「お客様にとっての最適解を提案したいと思っても、私一人の力には限界があります。それは今回のプロジェクトにおいても同様です。だからこそ、松田さんを筆頭に他部門の仲間と部門の垣根を越えて力を合わせ、オール富士ソフトでプロジェクトに臨めたことこそ、今回のプロジェクトの勝因だと思います。今後もお客様を第一に考え、日々の業務において『日本の自動車産業の国際的競争力を高めるために貢献する』というASI事業本部の基本理念を体現していきたいです」(村井)
富士ソフト株式会社
エリア事業本部 AI推進部長
松田 和実
富士ソフト株式会社
ASI事業本部 第1営業部長
村井 清一郎
お客様プロフィール
株式会社デンソー
https://www.denso.com/jp/ja/(新しいタブで開く)- 所在地
- 愛知県刈谷市昭和町1丁目1番地
- 設立
- 1949年12月16日
- 従業員数
- 158,056名(2025年3月31日現在)
- 事業内容
- 自動車の駆動・電源システムと関連製品、自動車の空調や冷却用製品、車両全体の電子システムなど、安全安心・環境へ貢献する自動車部品の開発、製造、販売